甘くて、甘くて
やっぱり甘い
日がとっぷり暮れている事にはっと気が付いた。
慌ててカーテンを閉めようと窓に向かうと、空からまっ白な月がこちらを覗き込んでいる。
「…今何時だろ」
時計を見ると時刻は20時を過ぎており、帰ってきてからかなり時間が経っていた。
「もう少し手際が良くなると良いんだけどな」
ぽつりと零した所で、先程まで居た台所のオーブンからふわりと甘い匂いが漂い始めた。
目的の物は良い具合に焼けてきているようだ。
ガチャッ
「!」
オーブンと自分の作業する音しかしない筈のこの家で鍵の開く音。
鍵を他に持っている者は一人しかいない。
バタン
「ただいま」
廊下から覗き込んだその顔に私は脱力してしまう。
どうして帰ってきたのだろう、この人は。
「今日は仕事が立て込んでてもっと遅くなるんじゃなかったの?」
「いや、思いのほか早く終わってな。帰ってきた」
にこりと笑ったロイにぎこちなく笑顔を返す。
漂う甘い匂いに気付いたのか、ロイが台所に目をやった。
「良い匂いがするな」
「…しょうがない」
「? 何がだ?」
ちょうど時間だ。
オーブンの扉を開けると、ちょうど良く膨らんだブラウニーがそこにあった。
チョコの甘い匂いと生地に混ぜ込んだクルミの香ばしい匂い。
「美味しそうじゃないか」
後ろから覗き込んできたロイ。
立ち上がって向かい合い、ロイの目を少し睨んで悪態を付いてやった。
「あーあ、遅くなるって言ってたから余裕だと思ったのに…」
「何かまずい事でもあったのかな?」
にやりと笑ったロイの指が私の顔を逸らさせない。
「まぁ、ね」
そっと触れるようなキス。
目を閉じる間際、ロイが声のない言葉を呟いた気がした。
部屋に漂うチョコレートの匂いと、微かに感じる甘いバラの匂い。
甘く、甘く、混ざり合って私とロイに届いている。
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2010.02.14
『いただきます』