体の熱は常に空気中へと霧散し、失われた熱は常に心臓が再び供給する。
奪われて補う、ただその繰り返し。
ただの生命の維持。
ベッドの上で上体を起こした体勢で本を読み耽っていたのだが、
ページを捲るたびに指先から熱が奪われていく感覚に私は本を閉じた。
今の所は用済みとなった本を机の上に置き、足に掛けていた毛布を引っ張り上げる。
―――今夜は随分と冷えるな…
手を伸ばしてライトを消そうとした時。
私は、ふとドアの向こう側に人の気配を感じた。
人の気配と言っても、この家に居るのは私と彼女だけで、その気配は彼女のものに間違いはないのだが。
どうしたのだろうかと、私は彼女がドアを叩くのを待った。
しかし彼女は何を躊躇しているのか、いっこうにドアを叩く音が聞こえない。
ドアを叩きもしないしその場から動きもしない。
「?」
静かに、しかし彼女に確実に届くような声で名前を呼んでみると、
少し間を開けてドアの向こうからやっと声が聞こえた。
「…入っても良い?」
「ああ」
微かに軋んで開いたドアの隙間から顔を覗かせて、そしてするりと部屋の中へ入り込む。
毛布を肩に引っかけて来た彼女は後ろ手にドアを閉めた。
「どうした?」
「えーと…その…」
「怖い夢でも見たのか?」
彼女はふるふると首を振って否定する。
もしそうならば一緒に寝てやろうかと口を開きかけていた。
「…一緒に寝ても良い?」
「はっ…?」
自分が言おうと思っていた事を言われて妙な声が出てしまった私に、
彼女はちょっと驚いてから、取り繕うように少し笑った。
「あ…ご、ごめん。やっぱり良いや。1人で…寝る…」
「ま、待ちなさい!一緒に寝よう」
「でも…」
「違うんだ。ちょっとびっくりしただけだから…おいで」
手招きすると、彼女はおそるおそるこちらに歩いてきて、もぞもぞと私の毛布に入り込む。
彼女が小さく安堵の息を零したのを確認し、
消し損ねていたライトを今度こそ消して私も毛布に潜り込んだ。
彼女を緩く抱き締める。
「珍しいな、が『一緒に寝よう』だなんて」
「だって…寒さで足が冷えて眠れなかったんだよ…」
足で彼女の足に触れると、予想以上の冷たさに驚いた。
彼女は彼女なりに、私の足に自分の冷えた足が触れないようにしていたようだった。
「この毛布あったかすぎる…」
毛布の方か、と突っ込むのはやめにして、どうやら冷えた足にはかなりあたたかいらしい。
その熱を生産しているのは私なんだが…
「ロイあったかくて幸せー…」
ぎゅー、っと彼女が私に抱き付いて擦り寄ってくる。
「ささやかな幸せだな…」
「でも幸せなんだもん」
「……確かに幸せだな」
ただの生命の維持だと思っていた熱の需給。
今、私とは、お互いのあたたかさを奪い合って、お互いのあたたかさを補っている。
そういう小さな幸せも、小さいけれど幸せに違いはない。
大きさが1でも100でも、幸せは幸せなんだから。
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2005.01.22
数年前の正月。
祖母の家に泊まりに行った夜、寒くて足が冷えて眠れませんでした。
結局隣に寝ている妹の布団に足だけ入れて頑張って寝たのを思い出しました(笑)
Web拍手お礼夢の「真っ白」にリンクしている、らしい。