それをあなたへ。
それは私の最上級。
君はふいに振り向いて私に
「あら…もしかしてそれは…」
リザが指差す。
一度リザの方を見たがリザの指差さした所に視線を動かすと、視線が自分の手元に行き着いた。
「これですか?」
「ええ、研究手帳かと思って」
カバーは暗い青色で、装飾など一切無いシンプルな手帳。
確かにこれはリザの言う通り、の研究手帳である。
「よくわかりましたね。
あたし、思いついた事は早くメモしておかないと絶対忘れちゃうんで…」
「という事は、今何か思いついたのね」
「そう!そうなんですよ!3次元に時間軸を加える事によって出来る次元の…」
そう言って再び手帳へペンを走らせ始めたは、普段と少し違う国家錬金術師の顔をしていた。
周囲の人間は、その表情をあまり見た事がない。
彼女の持つ雰囲気から、国家錬金術師であり少佐でもあるという事を忘れてしまいがちなのだ。
「そう言えば、国家錬金術師は研究手帳の中身を暗号化するらしいですね」
「その通りだ。技術をばらまいて悪用されては困るからな」
ロイとファルマンの言葉に、の手帳へと周囲の視線が注がれた。
隣の席でに一番近いハボックが、ひょいと手帳を取り上げて立ち上がる。
「あぁっ!ちょっとハボック少尉!」
手帳を持った手を上に上げれば、には到底届かない高さ。
ロイがにやりと笑った。
「よし、それをこちらへ渡せ」
「へーい」
「やめてー!汚い!汚いよー!」
ハボックに羽交い締めにされるをお構いなしに、爽やかに笑うロイは受け取った手帳を開いた。
「ははは。見た物勝ち…さ?」
「大佐?」
「…読めん」
そう言ってロイは手帳を開いたままこちらへと向ける。
「ロイ!ストップ!字の汚い女だと思われるからー!」
どうやら先程の『汚い』は、ロイとハボックの行動が汚いと言ったのではなく、
自分の字が汚いと言いたかった様だ。
全員が手帳を覗き込む。
「…これが汚い字なのかどうかすらわからないわ」
「え?あ…それなら良いです」
手帳に記された文字は、以外の人間が見たらまるで記号のような物。
この世界の人間による解読はほぼ不可能に近い。
「もしかして…の国の文字なのか?」
「うん。だから暗号化は一切してないよ」
実際は暗号化が面倒なので絶対に読めないであろう日本語で書いただけであり、
は字の汚さだけを心配していたのだった。
ハボックから解放され、ロイから取り返した手帳に再び先程の続きを書き連ねていく。
「の名前をその文字で見てみたいんだが」
ロイの言葉に周りが賛同し始めたのを見て仕事はどうしたのかと言いたくなるが、
リザも興味があるのか黙認しているので、まあ置いておこう。
はいらない紙を出して文字をすらすらと書き、それをみんなに見せる。
『 』
「おおー!何かスゲー!」
左が名字で右が名前、と説明を付け加える。
周りが自分の名前も見たいと言うので、は全員の名前を書き連ねていく。
「…リザさんはこうで…ロイは…こう?」
ふとロイは異変に気が付いた。
自分の名前らしい文字は周りよりも画数が多く、短いし何故か複雑。
「。これは本当に私の名前なのか?」
「ちぇー気付かれたか…本当はこう」
「じゃあこっちは何て書いてあるの?」
「………無能」
ぶっ。
誰かが吹き出した。
いや、リザ以外の全員が揃って吹き出したのだ。
「」
普段より幾分低い声で名前を呼ばれ、少しやりすぎたと反省するが既に遅い。
紙とペンを片手に1つずつ持ったまま、はロイの執務室へと連行された。
連れ込んだ執務室で、私はをドアへ押し付けて腕で囲った。
「少しお仕置きが必要かな」
「ご、ごめんロイ!ちょっとした出来心で!」
「ほう、出来心ね…」
の顎を捉えてくいっと上を向かせ、自分と真正面に向き合う様にする。
彼女の頬が少し染まる。
「から愛の言葉でも囁いて貰えば許さない事はないが…」
「は!?む、む、無理!」
「では仕方がない」
少し意地悪げに笑ってから唇を寄せるが、唇が触れ合う寸前でがストップを掛けてきた。
「わ、わかったから!」
「…言って貰えるのは嬉しいが、キスを止められるのも辛いな」
私が顔を離すと、は持っていたペンを走らせ、
ものの3秒で書き上げたその紙を私へ突き付けた。
その紙へ気を取られている隙には廊下へ飛び出し、
しまったと思ってももう遅く、彼女は一目散に走り去っていく。
私が廊下へ顔を覗かせた時、が足を止めてふいに振り向いた。
「ロイが一番欲しい言葉!」
可愛く頬を紅く染めてそう言った彼女が渡したこの紙。この文字。
読む事は出来ないが、恐らく彼女なりの最上級の言葉。
『 』
証拠は無いが、確実だ。
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2005.02.27
一番あげたい言葉を当て嵌めて下さいな。