何故でしょう



とても近く



あんなに遠い












そうだんだんと月が満ちるのだ












既に時計は23時をまわり、部屋の中には月の光が差し込んでいる。
その青白い光に浮かび上がる部屋は、昼間とは全く違う姿に見えた。
とても幻想的なのに、何故か冷たい。

「どうしてかな…君はこんなにも近くにいるのに…」

窓辺に置いた水を張ったお皿。
窓枠に凭れながら、は水面にそっと触れた。

あの時出掛けなければ。
あの道を通らなければ。
この目がなければ。

思い出すだけで溢れてくる涙は、ぽたり、ぽたりと腕に落ちて布の色を濃くしていった。










軍に入ってから初めての休日。
買い物へ行った帰り道、街の視察に出ていたらしいロイとハボックをは見つけたのだが、
その場の状況には呼吸をする事すら忘れてしまった。
一人の女性がロイと話していた。
薄い金の髪が似合う綺麗な人。
道の脇へと追いやられていたハボックはすぐにに気付き、くわえていた煙草を落としてしまった。
その焦った表情にハッとしたは、苦笑いを浮かべながら口元へ指を当てた。

『黙っていて』

その動作の意味を汲んだハボックは、少し哀しい表情をしてから小さく頷いた。
そしてロイに気付かれない内にはその場を静かに去った。
早足に帰ってきた家。
後ろ手に閉めたドアにずるずると凭れ、は座り込んだ。

すぐ近くにいるはずのあの人が、ずっと遠くに居るような気がしてしてならない。

誰も居ない家に嗚咽だけが響いていた。


















月の光に照らされる部屋の中、は両手で目を覆った。







「こんな目、なければよかった」


「それは困るな」

突然後ろから伸びてきた腕、耳元で響くあの人の声。

「離して…っ」
「断る」
「お願い…」
「そうしたら君は逃げるだろう?」

こんな自分は見られたくないのに、彼は逃げる事を許してはくれなかった。
自分が思っている以上にロイに依存をしていること。
それに自分がこんなに女々しいと思っていなかった。



「今日はすまなかった…」
「…黙っててって言ったのに…」

ロイは一旦を離すと、を自分の方へ向けた。






「勿論ハッキリと断ったよ。私にはもう大切な女性が居るから、とね」






たった一言…たった一言なのに、ロイの存在は近づいた。
なんて自分は単純な女なのだろう、とは思った。
でも、自分が単純になるのはロイに対してだけ。

「ごめん、なさい…ロイを疑うような事して…」
「良い。は悪くないから」

ロイはを抱き寄せた。
ロイの腕の中では眸をゆっくり閉じ、その温もりだけを感じていた。





腕に抱かれたまま、眸を閉じたままにがお皿の水を蒸発させると、
水面に囚われていた月は空へ帰っていった。




遙か遠くの月。


彼との距離は、零。










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2004.12.15

ネタの源はポルノグラフィティの「月飼い」からです。