ずっと、君の傍に
ずっと、あなたの傍で
東方司令部には老将軍が1人居る。
この将軍こそがこの東方司令部で1番の地位を持っているのだが、
概ねの実務は2番目の地位に就くロイ・マスタング大佐が担当していた。
そのロイ・マスタング直属の部下達は、昨日までの3日間の上司の勤務態度をおかしく思っていた。
「中尉…やっぱりおかしいっスよ」
「そうね。この3日、あの大佐が書類を溜めることなく職務を全うしているなんて…」
「雪が降るかもしれませんよ」
ロイが職務を全うする。
これ程嬉しい事は無い筈なのに、この変わり様を見ると逆に怪しく感じてしまう。
今日も、昨日と同じ様に真面目に書類と向き合うのだろうか。
リザを初めとする司令部の面々は、怪訝な顔をして渦中の人物の居る隣の部屋の方を見た。
上司が真面目に仕事をするのは良い事だ、とその場全員が割り切ろうとした瞬間。
ドアが勢いよく開いた。
「おはよう、諸君」
噂をすれば、とロイ・マスタングが現れた。
部下達は一斉に起立し敬礼をするのだが、堅苦しい雰囲気は漂っていない。
それがこの東方司令部の良い所でもあった。
「楽にしたまえ。実は今日から東方司令部に、1人新しく配属される事になった」
「女性…ですね?」
「中尉、何故わかるのかね?」
リザはひとつ溜息を吐いた。
「大佐のこの3日間における勤務態度について考えれば直ぐわかります…」
「なるほど。配属されるのが女性なら大佐の仕事も捗るわけだ」
「ハボック…本来ならケシ炭にする所だが、まあ今日は特別に許してやろう」
ロイの意外な言葉に、その女性がかなりの美人なのだろうという想像が出来る。
開いたままのドアの向こうにロイは声を掛けた。
「入りなさい」
「失礼します」
まだロイの影となって見えない彼女は、高過ぎない澄んだ声の持ち主だった。
そしてロイの横へ並んだその人物を見て、その場のロイ以外の全員が驚きに声を上げた。
「!」
「配属されてきた女性って…!」
「だったのか!」
してやったりという表情を浮かべながら、にっこりと微笑んだはぴっと敬礼した。
「今日付けで東方司令部に配属になりました・です。
慣れない事ばかりで至らない点も多々あると思いますが、
精一杯努めさせて頂きますので何卒ご指導宜しくお願いします」
ハボック、ブレダ、ファルマン、フュリーが呆気にとられる中、
いち早く我に返ったリザの目線がの肩章へと向けられた。
「階級は…少佐…!」
「少佐!? って事は…」
リザやハボックの言いたい事がわかったは、
まだ新しい軍服のポケットからごそごそとある物を取り出した。
かしゃ、と小さな金属の擦れる音が聞こえ、取り出したそれを胸の前に提持する。
「少佐は国家錬金術師だよ」
「因みに二つ名は”朧”です」
国家錬金術師の証の銀時計を提げながらVサインをするに、皆脱力するのだった。
そんなに苦笑いを零していたリザが凛とした表情に戻ると、それを感じ取った周りも姿勢を正す。
ロイと以外が揃って敬礼をし、リザが代表として挨拶を述べた。
「宜しくお願いします、少佐!」
「へ?あ、あの…皆さん止して下さいっ、ただの小娘ですから!」
自分よりも年上の人を部下に持つという事にかなりの違和感を感じたは、
しどろもどろになりながら両手を振って慌て始める。
「っ、くくく…」
無理矢理押し殺した笑い声。
その声は自分の横から…つまりはロイの笑い声で、少しばかりカチンときたは抗議の声を上げる。
「な、何ですか!マスタング大佐!」
「ああ、すまない。少佐になっても、やっぱりはなんだと思って」
「当たり前。あたしは地位が欲しくて軍に入ったんじゃないんだから!」
「私の為、なんだろう?」
ニヤリと不敵に笑うロイに、はぐっと次の言葉が出ず、ただ頬を染める。
最初の挨拶で公私混同するのは流石に不味いだろう思っての仕事用口調だったが、
ロイもも、もうそんな事は関係ないといった状態。
何も言えなくなったの様子を見たブレダが、そこでいち早く感付いた。
「ちゃんが大佐の為に軍に入った…?
はっ!まさか…遂にちゃんが大佐の毒牙に!?」
「マジか!」
「あなた達、階級を付けなさい」
「あ、中尉。良いんです。
さっきも言ったように地位が欲しくて軍に入ったワケじゃないので」
「ですが…」
「みんなには前通り接して欲しいんです…ダメですか?」
そのの言葉にリザはハッとしたが、次の瞬間微かに笑みを零した。
「…わかったわ、。
でも司令部の外に出たらちゃんとさせて貰うわね。市民に示しが付かないから」
「ありがとうございます、中尉。
あ、でも大佐にはちゃんと敬語の方が良いですよね」
『大佐』という場所を嫌に強調したのは、のささやかな仕返し。
勿論本当にそうするつもりは毛頭無いけれど。
「ふふ、そうね」
「と言うわけです、マスタング大佐」
満足げににっこりと笑いながらロイの方を見ると、当の本人は俯いていた。
そんなに効いたのなら、これからも有効な手だなとロイ以外の全員が思った次の瞬間。
顔を上げたロイの表情は笑顔そのものだったが、どこか恐怖を感じさせるものが含まれていた。
一歩退きたくなるような、そんな笑顔。
「あは…ど、どうしたんですか、マスタング大佐…」
「・少佐。勤務についての説明をしよう。さあ、私の執務室へ」
まずい。
やりすぎた。
更に油を注いでしまった事に気付いて顔を引き攣らせるの背中に、冷たい汗が流れた。
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お久しぶりです。
泪月の最終話より半月も空いてしまい、お待たせしてしまって申し訳ないです。
やっとこ第2章「朧」の始まり。
どうか最後までお付き合い下さいませ(ペコリ)