お願いです。


早く、早く目を覚ましてください。



















「寝ちゃってますね」
「あぁ、暫く寝かせてやろう」

ロイはリザへ自分の黒いコートを渡す。
彼女はロイが何を言いたいのかわかると、
あまり見せない微笑みを零して、コートをソファーに凭れて眠るへ静かに掛けた。
厚く垂れ込めた雲の所為で、まだ昼間だというのに外は薄暗く、雨が窓を濡らし始める。

が現れた時もこんな天気でしたね」
「…そうだな」

ロイは、相変わらずソファーで眠るへと一瞬視線を向けた。
















降りしきる雨の中、一人で立っていた。
ここには何もない。
ただ雨が降るばかり。
聞こえるのも雨の音だけ。
ゆっくり前へ歩みを進めるけれど、行けども行けども目に入るのは雨ばかり。

行く当ても無く、歩くだけの行為をどれくらい続けただろう。
そんな時、あたしは後ろから近付く何かの気配を感じた。
その気配から感じられる物は明らかな憎しみで…そう思った瞬間、首に手がするりと絡まってきた。
絡められた冷たい手は少しずつ力を込めていく。

逃げなければ、殺される

ただ恐怖だけを感じている体。
逃げなくては、とわかっていても動かない体。







怖い









これ、夢なんでしょ?

そうだよね?



お願い。

早く、早く目を覚ましてください。



















っ!」

大きな声で呼ばれ、気付くと目の前にはあたしを覗き込むような姿勢のロイとホークアイ中尉。
目から一筋涙が落ちるのを感じた。

「大分魘されてたけれど、大丈夫?」
「ロイ…中尉ぃ」
?」
「あの夢…殺されるかと…っ」

ロイが抱きしめてくれた。
ロイの腕の中はあったかくて、あたしの心を落ち着かせてくれる。
ホークアイ中尉は夢について知らないけれど、何となく事情を悟ってくれた様で何も言わなかった。
















夜になっても雨は止まずに降り続けている。
いつもなら、そう気になっていなかった雨の音も鬱陶しく感じ、
部屋のベッドに横になっても眠れない。いや、眠りたくなかった。
あの夢を見たくない……それだけ。
恐怖と緊張であたしの喉はからからだった。


隣室のロイを起こさないように気を付けながら廊下と階段を進み、
台所でコップ一杯の水を一気に飲み干した。
コップを流しに置いて一つ溜息を吐く。
部屋に戻ろうとドアの方を向くと、そのドアにロイが凭れ、腕組みをして立っていた。

「あ…もしかして起こしちゃった?」
「いや、ずっと起きていたんだ」
「そっ、か…仕事?お疲れさま。あたしもう寝るね、おやすみ」

そう言ってロイの横を通り過ぎようとした。
これから部屋に戻って眠れない夜を過ごして、朝普通にロイを迎えれば良い。
それで良いんだ。
ロイに心配掛けたくない。


でもそれは叶わなかった。
ロイがあたしの腕、捕まえたから。

「眠れないんだろう?」
「そんな事…」
「怖いんだろう?」
「…っ」
何で…何でわかっちゃうの?

ロイに腕を捕まれたまま、あたしは床にぺたりと座り込んで呟いた。
今にも涙が零れそうだった。

「あの夢が…怖いっ」

ロイの腕が離れて、あたしの腕は重力に逆らわず床へと落ちた。
はっとして顔を上げると、目に飛び込んできたのは白。
これがロイのYシャツの白で、ロイに抱き上げられている事に気付くのにそう時間は掛からなかった。

「ロ、ロイっ?」
「溜め込むのは良くないな。怖いのを我慢して眠らないなんて以ての外だ」

その間にもロイは階段を上って廊下を進み、着いたのはロイの部屋。
ベッドの傍まで来るとあたしを床に降ろし、ロイはベッドへと入っていった。

「誰かが一緒なら怖くないだろう?」

ロイは手を差し出した。

「で、でもっ」
「捕って食いなんかしないよ」

それでも渋っているとロイが痺れを切らした様で、
ベッドから出て来ると、あたしを抱き上げて器用にもそのままベッドへ入れられる。
あたしを抱きしめるロイの腕の中は、昼間に感じたのと同じであたたかくて心地が良い。

「怖くないだろう?」
「…うん」


あれほど鬱陶しく感じていた雨の音も気にならなくなり、あたしは微睡み始めた。
音をロイが遮ってくれているような、そんな感じ。















腕の中で眠る少女は一体どれほどのものを背負っているのだろうか。
彼女自身にもわからない、どれほど重たい何かを…

…」

頬に掛かる自分と同じ黒い髪を優しく払う。




あぁ、こんなにも愛おしい。











 

もー、ロイってば!(何)
多分あたしならすぐにでも応じちゃうよ!(ぇ)
ちゃんをベッドにどうやって入れようか悩みまくりましたー。
ロイがちゃんを先にベッドに入れたら何かヤヴァい雰囲気だろって思って。