声をかけたのは金髪の少年と、その少年を遙かに上回る背丈の鎧だった。
「あぁ。そういえば。小さいものだから忘れていたよ」
ロイが意地悪そうな笑みを浮かべて金髪の少年を見る。
「だぁれが豆粒どチビかぁーっ!」
「まぁまぁ兄さん、落ち着いて」
少年の事を兄さんと言った鎧は少年を羽交い締めにして
ロイに突っかかろうとするのを止めていた。
傍にいたリザは溜息を吐いて呆れ、
ハボックは相変わらず煙草を吹かしてブレダと現場の片付けを始め、
はというと、その光景に目を輝かせていた。
車を運転しながらバックミラーで後ろの座席へと視線を向けると、
エドは膨れっ面で窓の外を見ているし、アルは鎧の為に表情は分からないが、
雰囲気からして兄に苦笑いしている事が読み取れる。
そして助手席を見れば、ロイがにこやかに笑っていた。
「ロイ、何笑ってるの…」
「いや、君が運転する車に乗れるとは思っていなかったものだから。
何というか…嬉しくてね」
「たかが車だよ〜?」
「良いんだ」
ロイの考える事はよく分からないな、と思いつつカーブに差し掛かった為ギアをチェンジしたその時、
後ろから遠慮しがちな声がかかった。
「あのー…あなたは…」
「え?あたし?」
「そうだ。大佐、この子誰だよ」
「ちょっ、兄さん!」
「本当に失礼だな、鋼の」
エドの声からは不信感が感じ取れる。
自分に対するエドの態度に少々ヘコみながらも、まずは自己紹介をしなくてはと思った。
「えーっと、初めまして。・です。まずはこれで良いかな?」
「お、おう」
多少納得したような返事をしてくれたので少し安心した。
バックミラーでエドを見ると、エドと目が合ったので、あたしはにっこり微笑んだ。
「兄さんがすみません…僕はアルフォンス・エルリックです。兄さんは」
「エドワード・エルリックだ。その…悪かった」
「あはは、全然気にしてないから良いよ。エドとアルって呼んでも良い?
あたしの事も呼び捨てで良いし。あと、アルもタメ口で構わないよ?」
「ホント?」
車はそろそろ東方司令部へと到着しそうだ。
ロイの執務室で、エドワードはについてロイに質問を浴びせた。
「で、大佐。は見た所軍人じゃないみたいだけど?」
「あぁ…少し前に誘拐事件に遭ってね。今、軍で保護してるんだ」
「…へー」
そう言って苦笑いを浮かべるロイを正面にしてエドワードがにやりと笑った。
「まぁ、今回の件でひとつ貸しが出来たね、大佐」
「……君に借りをつくるのは気色が悪い。いいだろう。何が望みだね」
頬杖をついてロイが溜息を吐きながらそう言うと、
エドワードは「さすが話が早い」と言って用件を述べる。
用件は、この近辺で生態錬成に詳しい図書館か錬金術師の紹介。
「今すぐかい?せっかちだな、まったく」
「オレたちは一日も早く元に戻りたいの!」
エドワードは自分の左足をさすりながら、弟の事を思った。
そして、愚痴を零しながらも棚のファイルを調べるロイは、お目当てのデータを見つけた。
「ああ、これだ」
見つけた数枚の書類を持って椅子へ再び座り、読み上げる。
「遺伝子的に異なる二種以上の生物を代価とする人為的合成――――
つまり合成獣錬成の研究者が市内に住んでいる。
二つ名は『綴命の錬金術師』、名前はショウ・タッカーだ」
司令部に着くなり、ロイとエドは執務室へと行ってしまったので、
残されたアルとあたしは中庭でおしゃべりをする事にした。
「は軍人…じゃないよね?」
「うん、一般市民だよ。んー…今は保護されてるっていうか」
「保護?」
アルに誘拐事件の事を話すと、アルは慌てて謝ってきた。
「どうして謝るの?アルは何も悪い事してないよ?」
「だ、だって…誘拐されて怖い思いして、それを思い出させるような事…」
「大丈夫大丈夫。その事件の最中の事あんまり覚えてないから」
「え?」
「薬嗅がせられて意識がはっきりしてなかったのは幸いだよね!」
「そ、っか」
アルが益々落ち込んだ雰囲気を醸し出すものだから、
何とかしようと、事件発生前に起きっぱなしにしていた本に挟んでおいた紙を取り出した。
「ア、アルっ。これ見て」
「錬成陣?は錬金術の勉強してるの?」
あたしは照れ臭そうに笑って、地面に錬成陣の描かれた紙を置く。
今までは本を読んで頭の中で理論を組み立てるに留まっていたので、
実際錬成陣まで描いてみたのはこれが初めだった。
「錬成はこれが初めてなんだけど、錬成する前にまずロイに見せないとなんだ」
「大佐に?この理論なら大丈夫だと思うよ」
「ホント?ありがとーっ」
とその時、ロイとエドが並んで中庭に入って来た。
錬成陣を見せるのに丁度良い。
「待たせたな、アル。良い情報入ったぜ〜」
「おや、それは…」
ロイが地面の紙へ向けられたので、あたしはロイに錬成陣を見せた。
結構自信もあるし、更にアルのお墨付きだ。
「ふむ…完璧だ。よくここまで一人で出来たな」
「やったぁ!」
「何?も錬金術の勉強してんの?」
「うん、初心者だけどね」
そう言って錬成陣の真ん中に、砂をひとすくい落とした。
そして一呼吸。
「い、いきます」
両の掌を錬成陣に触れさせた。
変成反応特有の音と光が現れ、目の前には錬成されたものが現れる…
筈だった。
「…」
錬成されるはずの砂はその場にそのままの形で残り、音も光も起こらず終いだ。
その場に沈黙が続く。
あたしの頭の中では、砂をガラスに変えてコップか置物でも作る手筈だったので、
こうなるなんて予想していなかったわけである。
「ふふっ…うんともすんとも言わない錬金術はこの世に必要ないのよ。
所詮、錬金術の出来ない小娘はだたの小娘だ!」
どこかで聞いた事のある台詞に聞こえるのは気の所為だろうか。
「ま、まだ錬金術を学び始めたばかりだろう?」
「そうそうっ!大丈夫だよ!錬金術は努力の分だけ身になるんだからっ」
「あー、アルの言う通りだっ。もっと勉強すれば良いんだぜ!」
みんながフォローしてくれるのは嬉しいのだけど、やっぱりヘコむって。
まぁそんな顔したら折角みんながフォローしてくれたのが台無しなので、
あたしは無理矢理笑顔を作る。
「また理論から組み立て直せば良い。私が見てあげるから」
「大佐のそう言ってるし、オレもアルも教えてやるから。なっ、アル?」
「うん!」
優しさが嬉しい。
「ありがとう」
あたしは、この時に何故練成が出来なかったのかをもう少し後で知る事となる。
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なかなか話が進みませぬ。
何ていうか、毎回毎回予定していたのよりも進みが遅くて、
本当なら前回・今回・次回の話は1話で収まる筈だったのに・・・(ぇ)