そろそろ司令部に缶詰を解除しても良いと思うんだけど、
それを言い出そうとすると、ロイの顔がそれ以上言うなとあたしに物語る。
保護と言う形で司令部に缶詰になってから、
朝食は作れても、夕食はロイの仕事の関係もあって外で食べるか司令部の食堂だった。
何て言うか、等価交換が成り立っていないので悪い気がしてならない。
ロイとエドとアルは出掛けてしまったので、
さっき考えていた事は帰ってきたらロイに言おうと思う。
今度こそ負けないつもりだ。
足下には先程不発だった錬成陣の描かれた紙。
拾い上げて本当に間違いが無いか目を通す。
しかし何度見ても間違いは見つからず、芝生の上に仰向けに寝転んだ。
「はぁ。何で何にも起こらないのさ…」
寝返りをうって俯せに寝転んだまま本を開き、また理論を組み立て直し始めた。
今度は氷の像でも造ってみようかと関連したページを捲る。
紙の上をペンが滑らかに動いていった。
タッカー邸から戻ってきたロイは廊下で書類を抱えるハボックを見つけた。
「あぁ、ハボック。丁度良い所に」
「何スか?」
「夕方、鋼の達を迎えに行ってくれ」
「わかりました」
休憩室で本に没頭していたあたしだが、ドアの向こうから聞こえる声を捉えた。
本にしおりを閉じてドアを開けると、案の定ロイが立っていた。
ハボック少尉は既に居なくなっている。
「ロイ」
「あぁ、。何だい?」
ロイは笑顔で返事を返す。
あたしは右腕に持つ本に力を込めた。
今度こそ、という気持ちの表れだろうか。
「そろそろ保護を解除してほしい」
「…」
ロイはまたあの顔をする。
あたしはいつもここでそれ以上言えなくなる。
でも、ずっと考えていた事、言わなきゃ駄目だ。
「ロイが心配してくれるのはすごく嬉しい。
でも約束が…等価交換が成り立ってないの、もういやだよ…」
ロイは目を閉じて何かを考えているようだった。
程なく目を開き、そして不意に上げられた右手に対してあたしは反射的にぎゅっと目を瞑る。
しかし、思っていた衝撃は来なくて、そろりと目を開けると、そこには微笑むロイが。
上げられた手はあたしの頭に乗せられて、優しく撫でられた。
「驚かせてしまったな…」
「ロイ?」
「本当は君の気持ちわかっていたんだ。
だが私は君にそれ以上言うな、としてきた。
君の気持ちをわかっていたにも関わらずだ」
ロイの手は頬を軽く撫でてから降りた。
「すまなかった…今日で保護は解除だ」
「…ありがとう。でもロイは謝る必要ないよ。
あたしの為に保護って形をとってくれたんだから、我が侭言ったあたしが謝らなきゃ。
ごめんなさい」
その時、ロイの腕が閉じこめるようにあたしを囲った。
保護が解除されたので久しぶりに夕食を作れる。
執務室のソファーで、上機嫌にあたしは言った。
「今日の夕食楽しみにしててね」
「あぁ」
書類から顔を上げたロイが笑顔で答える。
そこである事に気が付いた。
冷蔵庫の中の食材が少なくなっていた事を。
暫く買い物をしていない冷蔵庫は、日持ちのする物位しか残っていなかった筈だ。
「ロイ…買い物行かないと作れないっぽい」
「何!?」
買い物して帰りたいな、とぽつりと漏らすと、ロイが心配そうな顔をしてこちらを見る。
その様子だと仕事をほっぽって買い物に付いて来そうな感じだ。
その時、執務室の扉がノックされた。
「入れ」
ドアが開き入ってきたのはエドとアル。
心なしかエドの表情は沈んでいるように見える。
「大佐、一応戻ってきた事報告に来たんだけど」
「ああ、ご苦労。良い資料はあったかね?」
その言葉にエドは溜息、アルは苦笑い。
明日も行くから、と言って部屋を出ようとした二人をあたしは引き留めた。
良い考えが浮かんだのだ。
「あっ!エドとアルにお願いがあるんだけど、良いかな?」
「お願い?」
「帰り際買い物に行こうかと思ってるんだけど、二人共付いて来てくれない?
あ…都合悪かったらいいんだけど」
兄弟は突然のお願いだったにも関わらず快諾してくれた。
ロイもそれなら、と言って未だこの辺の地理がわかっていないあたしに
家までの地図をサラッと描いて渡した。
そうしてあたしはエドとアルと一緒に市場へと足を向けた。
まずは野菜から。
今日の夕飯は何にしようかと考えながら次々野菜を手に取ってみる。
まあとにかく、あれば何か作れる事に変わりないのでかごへ入れていくと、
エドが不意にかごの中を見て言った。
「の家は今日シチューなのか」
「へ?」
シチュー?
かごの中にある野菜は、にんじん、タマネギ、じゃがいも…
確かにシチューで、カレーも可って所だ。
「そっか、シチューって手もあるね。よし、じゃあ今日はシチューにしよう!」
「何も考えずに入れてたのがシチューの材料なんて面白いねー」
「そうだねー。あ、そうだ!今晩、ご飯一緒に食べない?」
エドは確かシチューが好きなはず。
マンガでの回想シーンで「牛乳が入っているのにあんなに美味い」と言っていたと思う。
「え?マジで?」
「うん!」
「大勢で食べるのも楽しいでしょ」
一緒に食べる事も決定し、3人で笑いながら買い物を済ませて後は作るだけだ。
紙袋に詰まった荷物は軽い方では無かったが、ロイの家はそんなに遠くない筈。
気合いで行くかと決意を固めた所、腕の中にあった紙袋は宙に浮いてあたしの頭を飛び越えた。
後ろを見るとアルが軽々と紙袋を持っている。
「ア、アル!良いよ、あたし持つ!」
「良いから良いから」
「家まで送るぜ。大佐からも言われたし。
あ、いやっ、大佐に言われたから送るんじゃないから!」
「二人ともありがとう」
歩き出した二人に遅れまいとあたしも歩き出した。
市場も外れに差し掛かった辺りで花屋を見つけ、ついつい立ち止まってしまった。
ロイの家はそんなに物がない。
だから、せめて花でも飾ろうかと思ったのだ。
確か庭に花が結構咲いていたはずだから、数本切らせて貰おうと考えまた歩き出す。
そこであたしはやっと、エドとアルが先に行ってしまって居なくなっていた事に気が付いた。
「あちゃ〜。やっちゃった」
幸いロイの描いた地図は手元にあり、現在地もわかるから何とか大丈夫だろう。
あたしはエドとアルに追いつく為に小走りに市場を抜けた。
「えっと…あの角を曲がって…きゃっ!」
丁度向こうから曲がって来た人とぶつかってしまい、あたしは案の定後ろへと倒れる。
どこかのマンガでありがちなパターンに苦笑いしながら反射的に瞑ってしまったらしい目を開けた。
そこには手があった。
「へ?」
「すまない。考え事をしていた」
起こしてくれるみたいだったので、あたしはその手を取る。
「あ、いえ。あたしの方こそ、すみませ…」
自分の目を疑った。
褐色の肌。銀の髪。サングラス。そして、顔の傷。
スカーだった。
嫌な汗が背中を伝う。
「…! おまえは…」
「ホントすみませんでした!急ぐので失礼します!」
「あ…おい!」
スカーが何か言いかけていたが、そんな事知らない。
セントラルで国家錬金術師を何人も殺した男、スカー。
そんな危ない人物とこれ以上喋っていられないと思ったので、
腕をさり気なく外して、謝ってダッシュで逃げた。
残されたスカーは、自分の右腕と逃げ去った方向を交互に見つめていた。
エドとアルが走ってこちらに向かって来るのが見える。
あぁ、良かった。
「はぁっ、はぁっ、…これじゃ護衛の意味ねぇよ…」
「あはは…ごめん、つい花が綺麗だったから」
「良かった。気付いた時はどうしようかと思ったよ」
未だ心臓が早鐘を打っている為、あたしはこっそり一つ深呼吸をした。
「家はまだなのか?」
「もうすぐ。あ、ここだよ」
あたしが指を指した先を見た兄弟が揃って口にした言葉は、
あたしが初めてこの家を見た時と同じような物だった。
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うおー、スカーだ。
やっと出せて良かった良かった。
スカーって銀髪?白髪?
何か白髪だと老けっぽいので銀髪にしたんですけども・・・うーん;