執務室に鳴り響く電話の音。
受話器を取るといつもの交換手の声。
交換手が告げる相手の名前はもう聞き飽きた。
じりりり
「私だ」
「マスタング大佐でらっしゃいますね。セントラルのヒューズ中佐からです」
「……繋げ」
告げられた相手の名前を聞くや否や、ロイは顔をしかめた。
ほんの少しの間の後、プツと音がして繋がった事を示す。
「よう、ロイ!元気にしてるかーっ」
「ヒューズ…」
「まぁまぁ聞いてくれよ!エリシアがさぁ」
これから始まる電話でのヒューズの親バカっぷりは東方司令部の中でも有名で、
その親バカ電話の犠牲となるのが決まってロイというのもまた有名な話だった。
ロイは肩で電話を固定し、自由になった右手に発火布の手袋をはめる。
「電話越しの相手をケシ炭にする方法を誰か教えてはくれないものかね」
そんな事は無理だとわかっていて手袋をはめるのは、
何度もかかってくるヒューズからの電話によって生み出された彼の癖だろう。
「おーおー怖いねぇ、焔の錬金術師様は」
「他に用が無いなら切るぞ」
中指と親指を少し強めに擦ると小さな火花がちりっと音を立てて消えた。
それがロイの苛々とした様子を物語る。
「用ならあるぞー。・についてだ」
ロイがほんの僅かな反応をしたが、それは端から見れば変化は皆無という位の反応。
しかし、ロイの心の内では、外見とは正反対の反応を示していた。
「何故おまえが知っている」
「大総統直々に言い付かったんでね。戸籍の件だ」
ひとまずホッとした所で、人選が大総統らしいとロイは思った。
大総統はヒューズにこう言ったらしい。
『ヒューズ中佐。君はマスタング大佐とは付き合いが長いらしいな。
それに君を信頼に足る人物として、これの処理を頼みたい。
この子の戸籍取得に関しては極秘とする』
差し出されたのは戸籍の取得に関しての数枚の書類だった。
「そう言う事か…」
「そう言う事だ。今一緒に住んでんだろ?住所がおまえの家だったから」
「あぁ。家事をしてもらっているよ」
電話の向こうから、ヒューズが何かを企んでいるような笑いを微かに漏らした。
それに気付いたロイは眉をひそめる。
「ロイが同棲ねぇ〜。年は離れてるがこのまま嫁にしちまえ!」
いつもは「早く嫁さんを貰え」と言われるとすぐさま電話を切るのロイなのだが、
今回ロイは電話を切らず、代わりに口の端をつり上げた。
「そうだな」
「はっ!?お、おい!おまえまさか本…」
向こうが喋っていたのも気にせずロイは受話器を降ろした。
ヒューズはからかいのつもりで言ったのだろうが、ロイにしてみれば違う。
「本気だよ」
そう言って執務室のいつもの椅子へと腰掛けた。
「でっけぇー」
「大きな家だねー」
驚きを隠せない兄弟の後ろで、あたしははうんうん頷いて同意していた。
ロイから貰った合鍵を出して鍵を開けると、2人を中へと招き入れた。
「どうぞー」
「「お邪魔します」」
あたしはアルに運んで貰った食料品やら何やらをてきぱきと仕舞い、
そして、ここへ来て初めての客人エドとアルに何か飲み物はどうかと聞いた。
「紅茶で良い?」
「おう」
「あ、僕は…あんまり喉乾いてないから。ごめんね」
アルが食べたり飲んだり出来ない事は知っている。
でもわざわざ聞いたのは、あたしがそれを知っている事を2人は知らないのに、
何も聞かずに出さないのも変だと思ったからだ。
「そっか…でも淹れるね。飲みたくなったら飲んで」
「ありがとう」
テーブルに並んだ2つのカップから、紅茶の良い香りがふわりと広がった。
一口飲んだエドが小さく呟く。
「って紅茶淹れるの上手いんだなー。今まで飲んだ中で1番だぜ!」
「ホント?ありがとー」
「結構本格的なヤツで淹れてたよね」
ロイが殆ど使わず棚の奥に仕舞われていたのを引っ張り出したのだ。
折角あるのに勿体ない、とあたしが使っている。
「まぁあの人はコーヒー派だし、使わないのは勿体ないからね」
「「あの人?」」
声を揃えて返された。
どうやらエドとアルは、ロイとあたしが一緒に住んでいる事を知らないらしい。
確かに、さっき執務室でもロイは地図を描いた他に何も言っていないし、あたしも何も言ってない。
あたしは内心にやりと笑った。
驚かせてみたいので、まだ言わないにしておこう。
「少し前からここに居候させて貰ってるんだ」
「居候!?…通りでにしては殺風景な家だと…」
「確かに殺風け…あ!」
殺風景と聞いて、花を飾ろうと思ってたのを思い出した。
2人に少し待っててと言い残し、ハサミをもって庭へと降りた。
窓の外の庭で思い思いの花を選んでいるをエドワードとアルフォンスが見ていると、
高くもなく低くもない心地良い声での歌が2人へと届いた。
小さな声だった為に何を言っているのかわからないが、
紛れもなくそれはの声で、花に優しく触れては優しく微笑む彼女にぴったりの歌声だった。
アルフォンスは、その歌を邪魔しないようにと小さな声で兄へと声をかける。
「は歌も上手だね」
しかし、エドワードからは反応が返ってこない。
まっすぐを見つめる兄の瞳の中に、弟は1つの感情を見つけ出した。
「兄さん」
「っ!な、何だ?アル」
クスと笑ったアルフォンスにエドワードは首を傾げる。
そして、心の内で兄に対しての言葉を呟いた。
青春だね〜、兄さん。
程なく歌は一旦終わり、また新しい歌を口ずさみ始めた。
先程よりも近くで歌っていたので、声もはっきりと聞こえた。
しかしエドワードとアルフォンスには理解の出来ない異国の言葉…
否、この国・この世界には存在しない言葉の歌だった。
「どこの国の歌だろう…」
「…はアメストリス出身じゃないって事か?」
そんな話をしている間にも歌は進んでいく。
歌を聴いているうちに、2人の心の中には何とも言えない感情が溢れてきた。
悲しい
つらい
そして
痛い
「兄さんっ…」
「ああ、この歌の…」
2人にとって異国の言葉で、歌詞の意味がわかる筈がないのに、
エドワードとアルフォンスの心はちくちくと痛んだ。
の優しい声がその歌の歌詞をいやに強調しているような気分に陥った。
そんな時、不意に歌が途切れて腕に花を抱えたが戻ってきたが、
先程と打って変わっての2人の様子に気付いて心配そうに駆け寄る。
「ど、どうかしたの!?気分悪い?」
エドワードは胸の辺りをぎゅっと握りしめて顔を俯かせていたが、
ゆっくり顔を上げると、ひどく今にも泣きそうな表情で言った。
「何でだ?その歌が…痛いんだ」
はハッとした。
浅はかな行動をした事を後悔し、また、そんな自分に対して怒りを覚えた。
その曲はにとっても外国の言葉だったが、
好きな歌だった為に何度も聞いている内に覚えたのだ。
歌詞の意味も調べたりしたので全部知っている。
知っているのにも関わらず2人の前で歌ってしまった。
つい、では済まされない、とは思った。
鋼の錬金術師のアニメの挿入歌として作られた歌。
エドワードとアルフォンスの事を謳った歌。
タイトルの意味は
『 兄弟 』
← →
ずっと書きたかったシーンの1つを書く事が出来ました〜。
この曲、すごく好きです。
初めてヒューズが出て参りました〜。
この電話のやりとりは私的に結構気に入ってます。