敵は手強いよ?兄さん。
「そこにロイ達が来てくれて、助けてくれたの」
「そうか、それでは司令部に居たんだな」
僕達は食卓を囲みながら先日の身に起こった誘拐事件について話していた。
の話に相槌を打つ大佐の顔は、何故か話が進む度に暗い影を濃くしていった。
「怪我も軽くてすんだし、良かった。ね、ロイ」
「…」
「ロイ?」
「に危険が及んでしまったのは私の所為だ…怪我までさせてしまった…」
珍しく弱気な大佐に僕も兄さんも驚きを隠せない。
よく見れば大佐の左手は固く握りしめられて微かに震えていた。
はスプーンを静かに置くと、大佐の左手に自分の手を乗せて言った。
優しい笑みを浮かべて。
「ロイの所為じゃないってば。あの時も言ったでしょ?
『生きてるんだから、それで良い』って」
その時、大佐の顔はいつも見せる自信満々な笑みではなく、弱々しく儚い笑みだった。
大佐はの事がすごく大事なんだって感じた。
兄さんの入れる余地なんか、無いかもしれない。
時計は既に9時を回り、夕方覗いていた月は、今はもう雲に隠れて見えなくなっていた。
「大佐!頼むっ!」
「ロイ〜。あたしからもお願いする」
エドとあたしは大佐に手を合わせてお願いしていた。
実は今日泊まる宿を決めていなかった為、
この家に泊まれないか聞いてみた所、ロイは嫌だと即答したのだ。
渋るロイに、あたしは乙女の究極必殺技を繰り出した。
くらえ必殺上目遣い&潤んだ瞳(目薬)!
「ロイ…だめ?」
「っ……わ、わかった。今晩だけだぞ!」
「ありがとロイ」
それを見ていたエドがひっそり耳打ちをした。
(って大佐の扱いが慣れてるな…)
(大体男の人ってのはコレに弱い(と思う)わ!)
目薬を見せてガッツポーズを作った。
(…さいですか)
寝る直前になって困った事に気が付いた。
今にも雨が降り出しそうな雲で空は全部覆われていたのだ。
このまま眠れば、またあの夢を見てしまう。
こう断言出来るのに根拠はないが、今まで夢を見た時は必ず雨だったし、
第一あたしの勘がそう言っている。
あいつが来る。
その恐怖があたしの全身を駆け抜けていった。
枕をぎゅっと抱き締めて、あたしはベッドの上でその恐怖から身を守るように体を小さくした。
しかし、いつまで経っても恐怖は消えない。
寧ろ大きく成長して、目を閉じれば顔も名前もわからぬあいつの姿。
そうこうしているうちに雨粒がひとつ、またひとつ地面を濡らし始めた。
こんこん
静寂の中に響くノックの音。
窓の外を眺めていた私は、ドアの方へと急いだ。
「今そっちに行こうかと思い始めていたんだ」
思った通り、ドアの外には抱き締めた枕に顔を埋めるが立っていた。
ゆっくり顔を上げた彼女は唇を噛みしめ、恐怖に怯えていた。
「や…やっぱり…ダメ…みたいで」
小さな声は震えていて、とても痛々しかった。
私はの肩を抱いて部屋に招き入れ、静かにドアを閉めた。
ベッドに入っての華奢な体を優しく抱き締めると、
はぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「目…閉じると、あいつが…」
「大丈夫だ…私が居る」
の言葉を遮って言うと、は擦り寄って来て私の服を握りしめた。
君を恐怖から守るように。
君が良い夢を見られるように。
私は君を強く抱き締めた。
「な、何でが大佐の部屋に…」
お、落ち着けオレ。
風呂から上がって、誰も起こさないようにって階段上ってたら大佐の声がして。
階段からちょっと顔を覗かせて見てみたら、大佐がの肩抱いてて。
そんでそのまま大佐の部屋に入ってっちゃったというか…
っていうかは…まさか…まさか大佐と…!
あー!何考えてんだオレっ!
顔が熱いのは風呂の所為だと自分に言い聞かせて大佐から宛われた部屋に戻ると、
アルはベッドの縁に座って本を読んでいた。
「あれ、兄さん顔真っ赤だよ」
「う、うるせー。それより聞いてくれよ」
「? 何かあったの?」
さっき見た事をアルに言うと、同じ様な想像をしたのか、かなりあたふたしていた。
もう兄弟揃って自己嫌悪だ。
「と大佐って付き合ってるのかなぁ?」
「なっ…オレは認めねぇぞ!」
「でも昼間言ってた『女の人に困ってない』発言もあるし…
まぁ、こういう事は本人に聞いた方が早いんだろうけど」
「っ…もう寝る!」
「え?あ、うん、おやすみ(気になるんだ兄さん…)」
確かにと大佐の関係は気になる。
あんな場面を見れば尚更だ。
オレは頭の中にある色々な考えを何とか振り払い、眠りについた。
目が覚めると、道に出来た水たまりに太陽の光が反射していた。
あたしとロイは、まずは宿を探すというエドとアルを見送る為に玄関に出ている。
「ありがとうございました、大佐。も」
「いや、良いさ」
アルが丁寧にお辞儀をして、エドにもお礼言うように促した。
「ありがとな、」
「うん」
「鋼の…私に感謝の言葉は無いのかね」
「アリガトウゴザイマシター」
ロイが右手に発火布の手袋を嵌めかけたので、それを慌てて制す。
市街地破壊はやめてね、ロイ。
「もうこんな時間か。準備がまだ終わっていないというのに…
あぁ、鋼の。宿が決まったら一旦司令部に来るように」
時計を見たロイは、そう言い残して準備の為に家の中へと入っていった。
つられて時計を見たエドが、自分達もそろそろ行く、と言った。
「じゃあな、。また来るから」
「うん、またおいで…ってあたしの家じゃないけどね」
エドが歩き出した。
しかしアルはまだあたしの前に立ち尽くしている。
「アル?エドに置いてかれるよ?」
「え…と。突然なんだけど、ってさ」
「ん?あたし?」
それは少年の無垢な質問だった。
「と大佐って付き合ってるの?」
「え?…あ…」
質問の内容が予想していなかった物だったので、言葉に詰まった。
何も言わないあたしを、アルがどう解釈したのかはわからない。
「や、やっぱり良いや!ごめんね、いきなり!じゃあっ」
アルはエドの方へ走っていった。
玄関で立ち尽くしていると、ロイが出てきた。
「じゃあ私も行くから。私が居ない間、気を付けて」
「あ…うん。いってらっしゃい」
ロイも送り出して家の中へと戻り、ソファーに腰掛けた。
アルがあたしに投げかけた質問が頭の中でぐるぐる回って消えない。
ロイとあたしはそんな関係じゃない。
でも今、気付いた。
あたしは、マンガのキャラクターとしてじゃない、『ロイ』という一人の男性が好き。
そう思った瞬間、あたしはハッとした。
もしかして、あたしの想いは…ロイの枷にすぎない?
この想いはあってはならないもの?
だってここは『鋼の錬金術師』の世界。
話を知っているあたしの何かちょっとした事でも歴史を変えてしまうかもしれない世界。
だとした、本当は居ないはずの自分の存在が……ロイを、みんなを危険に晒すかもしれない。
胸が苦しくなって胸の辺りを強く握りしめた。
あたしはこの世界に居ない方が…良い?
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やっとここまで辿り着いた。
そーろそろクライマックスです。