静かにドアを開けると、奥のベッドに眠るが見えた。
今のところ魘されていない様で、少し安心した。
しかし彼女は無表情で、夢の中を何も語っていない。
その所為なのか、一旦は安心した気持ちがまた不安へと変わっていく。
私はベッドの傍らに椅子を置いて座ると、の髪を梳いた。

彼女は今自分を知ろうとしている。
それはとてつもない大きな物だろう。
それがに重くのしかかるなら、私は…


















あの世界がフェードアウトした瞬間から、階段をスローモーションで落ちているような感覚。
徐々に覚醒していると感じる意識の中で、どこか左手があたたかいという感覚を覚えた。
覚醒が進めば進むほどそれは明確になっていく。


白い世界が途絶えた時、あたしは目をゆっくりと開けた。
あぁ、自分の事なのに何もわからず仕舞いだ。
涙がひとつ、流れてシーツへと消えていった。


目が覚めた事でくっきりと輪郭を持った感覚を確かめる為に左を見ると、
ロイが自分の左手を握ったままベッドに突っ伏して眠っていた。
左手はそのままに体を起こし、「ありがとう」と囁きながら哀しげに微笑む。
あたしはロイを起こさないよう慎重に左手を外した。
ロイに毛布を掛けると静かに部屋を後にした。






最後のロイへの朝食を作る為に。





















じりりりりん


軍の電話が鳴った。
しかしロイが起きてくる気配が全くなかったので、急いで部屋へと起こしに行く。

「ロイ、起きて?」
「ぅ…?私は寝てしま…あ…真実はわかったのか?」
「そんな事より!軍の電話鳴ってる!」
「何!?」

がたりと椅子から立ち上がると、毛布がふわりと床へと落ちた。
すぐに電話口へと向かうロイ。
こんなに朝早くの電話となると、相当な事件なのだろう。
最後の朝がこんなに慌ただしくなるとは思っていなかった。
多分ロイもすぐに出掛けてしまうだろう。
苦笑いしながらお皿を拭く。しかしお皿を拭く手がゆっくりになって最後は止まった。
その時。

「何!?タッカーが!?」



がしゃん



今、何て?


「ああ…わかった。すぐに行く」

受話器を置くや否やロイが台所へと入ってくる。

!?今何か割れる音が」
「ごめ…ちょっと手が滑っただけ。片付けておくから。ロイ仕事なんでしょ?」

そう言うと、ロイはすまなそうな表情をした。
あたしは平静を装いながら、ロイのいつもの黒いコートを渡して玄関へと促す。

「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」


ぱたんとドアが閉まる。
振っていた手が、がくりと落ちた。






「タッカー」と確かにロイは言った。
何故忘れていたんだろうか…こんなにも痛ましい事件なのに。
タッカーは娘のニーナと飼い犬のアレキサンダーを対価に、喋る合成獣を錬成した。
昨日ロイの帰りが遅かったのは、エドとアルが、ロイにこの事を報告したからだろう。
さっきの電話は多分、タッカーとニーナが殺されていたのが発見されたからだ。

閉じた瞼の裏にニーナの笑顔が浮かぶ。

あたしが止められれば、ニーナが死ぬ事は無かっただろう。
この事件が起こる前に、気付く要素は今まで沢山あった筈なのに、気づけなかった。


あたしは多分…いや、絶対恐れていたんだ。
ニーナを助ける事によって、他の誰かが死ぬかもしれないということを。
しかし結局の所、あたしがニーナを見捨てことに変わりはなかった。
きっと気付かないふりをしていたんだ。







「―――っ…ふ…ニー、ナ。ごめん…ごめんっ」

あたしはその場に泣き崩れた。


その時、エドとアル、司令部のみんな、そしてロイ。
一瞬にして頭の中に浮かんできた。
これからみんなはスカーと遭遇する。
もし、自分の所為でこの世界の未来が変わっていて、
この危険な遭遇で誰かが死ぬというのなら、あたしはそれを止めたい。






最期にその為に動くのなら…それは許されることだろうか?







『動きたいのなら、動けば良いでしょう?』







そう聞こえた気がした。











 

久しぶりの更新・・・1ヶ月も空いてすみません(汗)
人の心を表現するのは難しい・・・凹。
書けば書くほど、書き直せば書き直すほど、何を書きたいのかわからなくなってきます。