始まりはどこでしょう 終わりはどこでしょう
どうかとどめを刺して
生まれかわれません あなたがいないから
この世はひとり
「俺ぁ生きてるタッカー氏を引き取りに来たんだが…
死体を連れて帰って裁判にかけろってのか?」
眼鏡を掛け、顎にひげを少し生やした男が、青いシートを指しながら言った。
そのシートの下からは赤い液体と、それにまみれた腕が一本はみ出している。
文句を言う男に、現場の指揮官・ロイは頭を抱えた。
「こっちの落ち度はわかってるよ、ヒューズ中佐。とにかく見てくれ」
「ふん…自分の娘を実験に使うような奴だ。神罰がくだったんだろうよ」
そう言いながら、ヒューズと呼ばれた男はシートを捲ると、顔を顰めた。
「うええ…案の定だ。外の憲兵も同じ死に方を?」
「ああそうだ。まるで内側から破壊されたようにバラバラだよ」
ヒューズはシートを元に戻すと、血で塗れた手を拭きながら隣の男を見る。
「どうだ、アームストロング少佐」
アームストロング少佐と呼ばれた男は、アルフォンスと引けを取らないほどの背丈と、
軍服の上からでもわかる程鍛え抜かれた体が第一印象だ。
「ええ、間違いありませんな……”奴”です」
一旦部屋から出たロイ達は、廊下で”奴”について話を始める。
「『傷の男』?」
「ああ、素性がわからんから俺達はそう呼んでる」
ヒューズとアームストロングの話によれば、スカーは神出鬼没で武器も目的も不明。
ただ、額に大きな傷があるらしい事位しか情報がないらしい。
「悪い事は言わん。護衛を増やしてしばらく大人しくしててくれ。
これは親友としての頼みでもある。
ま、ここらで有名どころと言ったら、タッカーとあとはお前さんだけだろ?」
その時、ロイはある事に気が付いた。
「まずいな…」
「? おい!」
「エルリック兄弟がまだ宿にいるか確認しろ。至急だ!」
「あ、大佐」
今ここに着いたらしいリザが返答を返した。
「私が司令部を出る時に会いました。
そのまま大通りの方へ歩いて行ったのまでは見ています」
「こんな時に…!!」
珍しく焦った様子のロイに、3人は事態の危険性を感じ取った。
「車を出せ!手の空いている者は全員大通り方面だ!!」
降りしきる雨の中、エドワードとアルフォンスは時計塔の下で座り込んでいた。
ついさっき司令部でリザに聞かされた事が頭の中でぐるぐる回る。
「オレはバカだ。…あの時から少しも成長していない」
エドワードは、雨に当たれば心の中のもやもやした物も少しは流れるかと思っていた。
しかし、顔に当たる雨の一粒一粒が今は鬱陶しかった。
「でも…肉体がないボクには雨が肌を打つ感覚も無い。
それはやっぱり寂しいし、つらい。
兄さん、ボクはやっぱり元の身体に…人間に戻りたい。
たとえそれが世の流れに逆らうどうにもならない事だとしても」
アルフォンスは拳を握りしめた。
その時、憲兵がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「エドワード・エルリックさん!!
ああ、無事で良かった!捜しましたよ!」
「何?オレに用事?」
「至急本部に戻るようにとの事です。実は連続殺人犯がこの…」
エドワードをアルフォンスの目に、憲兵の後ろに立つ背の高い男が目に入った。
それに気付いた憲兵自身も振り返る。
男はエドワードの名前を呟いた。
「エドワード・エルリック…鋼の錬金術師!!」
男の目は一瞬にして鋭く変化してエドワードを貫き、殺気が全身を舐めた。
額に傷がある事に気付いた憲兵は、腰に下げていた銃へ瞬時に手をかける。
「!! 額に傷の…」
「よせ!!」
エドワードが制止の声を上げた瞬間、
男の右腕が憲兵の頭を掴み、それと同時に身体の至る所から血が噴き出した。
生きる事を止めさせられた身体は、重力に沿って雨に濡れ続ける地面へと落ちる。
ドシャッ
エドワードの頬に一滴の血が飛んだ。
「逃げろ」と頭の中では叫んでいるが、恐怖に負けて身体が動かない。
ダメだ……
死ぬ!!
そう思った時、すぐ後ろの時計塔が9時を指し、大きな鐘の音が鳴り響く。
その音はエドワードを我に帰らせてくれた。
「―――っ、アル!!逃げろ!!」
2人は走り出した。
「…逃がさん!」
走って走って、やっと時計塔の広場へと辿り着いた。
まだ100メートル程先の時計塔の下に、いつもの赤いコートを着たエドとアルが見える。
そして地面に倒れている憲兵と…スカーの姿。
そして鐘の音が鳴った瞬間エドとアルが走り出し、その後をスカーが追う。
まだ同じ…同じだ。
自分もその後を追う為に走り出したのだが、
流石に100メートルも差があった所為で3人を見失ってしまった。
未来が変わっていないのなら、何処かの路地に入った筈。
走りながら通り過ぎる路地の間に目を配らせていると、前方に路地から飛び出したエドが目に入った。
しかしそこは雨で霞んで見える程、まだ距離がある。
路地の中ではアルが鎧を破壊されて倒れている筈だ。
目を凝らしながら走っていると、スカーがエドの右腕に手を掛け、
赤い光が発生した瞬間、エドの右腕・機械鎧が粉々に砕け散った。
「軍は…ロイはまだ!?」
もうそろそろ軍が到着して、殺される寸前だったエドは助かるのに!
漫画では、スカーが手を頭に持って行く途中で軍が到着する筈が、未だ軍の来る気配はない。
やっぱり未来は変わってしまったの?このままじゃ…!
「やめて!」
「っ、!?」
あたしはエドとスカーの間に入った。
スカーが目を見開いてあたしを見る。
「お前は…!」
「エドはアルを」
「バカっ!危ないから下がってろ!」
「だめっ!」
エドの言葉を払い除けて、あたしはスカーを睨んだ。
怖い
怖い
怖い
怖い
怖い
唇を噛みしめてそれに耐えながら、やっとの事で声を絞り出す。
「復讐なんか止めて下さい。何にも変わりません…繰り返されるだけです。
あなたも本当はわかっているんでしょう?」
「邪魔をするなら、お前も排除するまで」
「!頼むから下がってくれ!」
スカーの手があたしの頭に当てられると、ぼんやりとスカーの腕が赤く光る。
抵抗はしなかった。
する必要もなかった。
どうせ死ぬつもりだったから。
軍が来るまで、時間稼ぎが出来れば良い。
「抵抗しないのか?…何故死に急ぐ」
「……守りたい物、大切な物が見つかったから…」
「普通は逆だろう。守りたいから生きるのではないか?」
それを聞いたあたしは、微笑みながら涙を零した。
その涙は雨と混ざり合って地面へ落ちた。
頭から手が離れていく。
「ならば殺すまい。代わりにその身体を作った錬金術師を教えて貰おうか」
言っている意味がわからない。
「何を…言って…」
「何も知らないのか…」
「もっと教えて!」
スカーに縋る。
この男はあたしの真実に一番近い…近いんだ。
ガウン
雨の中一発の銃声が木霊した。
「そこまでだ。危ないところだったな、鋼の」
ロイの声。
どうやら何とか引き延ばせたようだ。
「大佐!こいつは…」
「っ!?何故がここに居る!?」
どうやらあたしは大柄なスカーに隠れて見えなかったらしい。
その直後、小さく舌打ちが聞こえたかと思うと首の後ろに衝撃が走り、意識が薄れていった。
「っ…」
遠くでエドとアルそしてロイが自分を呼ぶ声が聞こえる。
貴方も教えてはくれないの?
教えてくれないのなら…・
「死なせて…おねが…」
最後に見たのは濡れた地面に反射する青色だった。
あなたしかいません 他にはいりません
生命と引き換えても
泣き叫んでいます 気が狂いそうです
かなしいよ泪月
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最初と最後はRUIの泪月から引用しました。
この曲大好きなんです。
7月26日:加筆修正。