オレは聞いてしまった。

は小さな声で、でも確実に「死なせて」と言ったんだ。
















の体はエドワードへ倒れ込んだ。
エドワードは右腕が無い中、残った左腕で何とかを地面と衝突させる事を防いだ。

「鋼の!は!?」
「…大丈夫。気ィ失ってるだけ」

アルフォンスやロイ、リザ達がエドワードの言葉にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。
再びピリッと張りつめた空気が辺りを包む。

「一連の国家錬金術師殺しの容疑者……だったがこの状況から見て確実になったな。
 タッカー邸の殺害事件も貴様の犯行だな?」

それを聞いたエドワードはスカーを睨み付けた。
笑顔で無邪気なあの少女の姿が浮かんで消えた。

「…錬金術師とは、元来あるべき姿の物を異形の物へと変成する者…
 それすなわち万物の創造主たる神への冒涜…


 我は神の代行者として裁きをくだす者なり!」


スカーは拳を胸の前で握りしめた。
ロイを始め、軍の者、エドワードにはわからなかった。
それはスカーが何故国家錬金術師ばかりを狙うのか、という疑問。

「それがわからない。世の中に錬金術師は数多いるが、
 国家資格を持つ者ばかり狙うというのはどういう事だ?」
「……どうあっても邪魔すると言うのなら、貴様も排除するのみだ」
「…おもしろい!」

ロイはリザへと銃を投げ渡し、愛用の発火布の手袋を嵌めた。

「マスタング大佐!」
「おまえ達は手を出すな」
「マスタング…国家錬金術師の?」
「いかにも!『焔の錬金術師』ロイ・マスタングだ!」

ロイは手袋の錬成陣を見せた。
それを見たスカーは右手の骨をひとつ鳴らすと、殺気を露わにした。

「今日はなんと佳き日よ!!」

動き出したスカーを合図に、ロイは手を構える。

「私を焔の錬金術師と知ってなお戦いを挑むか!!愚か者め!」

その時、リザは重大な事実に気付いた。
今の天気は雨なのだ。

「大…」

声を掛けただけでは間に合わないと思ったリザは、
素早くしゃがみ込むとロイの足を後ろから思いっきり蹴った。
リザの蹴りの勢いに負けてロイの体は後ろへと沈み、スカーの右腕が空を切った。
そしてしゃがんだ体勢のままリザは銃を両手に構え、スカーを狙って一気に10発近く撃ち込む。
撃ち込んだ分の空薬莢が飛び出ては地面へと落ち、小さな音を立てた。

「いきなり何をするんだ君は!!」
「雨の日は無能なんですから下がっててください大佐!」

その一言はロイにかなりの衝撃を与えたのだが、更にハボックが追い打ちをかける。

「あ、そうか。こう湿ってちゃ火花出せないよな」

ロイの頭に『無能』と言う文字が直撃すると、
がくりと膝をついて真っ白になり、「無能」と何度も呟いた。

「わざわざ出向いて来た上に焔が出せぬとは好都合この上ない。
 国家錬金術師!そして我が使命を邪魔する者!この場の全員滅ぼす!!」

「やってみるがよい」

背後の気配に気付いて振り向いた瞬間繰り出された攻撃を、
スカーは右へと避ける事で回避した。
狙いを外してしまった攻撃は建物の壁へとめり込んだ。

「む…新手か…!!」

これから始まるであろう激しい戦闘を予想し、エドワードはロイ達の方へを連れて避難した。
アルフォンスも心配なのだが、今そこへは近付けない。
スカーに近過ぎた。

「ふぅーむ。我輩の一撃をかわすとは、やりおるやりおる。
 国家に仇なす不届き者よ。この場の全員滅ぼす…と言ったな。
 笑止!!ならばまず!!この我輩を倒してみせよ!!」

腕を引き抜くと、穴を中心に壁に亀裂が走り、建物は崩れ去った。

「この『豪腕の錬金術師』…アレックス・ルイ・アームストロングをな!!」

スカーはにやりと笑った。
彼にとって今日は本当に佳き日だった。
次から次へと国家錬金術師が自分から出向いて来るのだから。
崩れた建物の破片は、アームストロングにとって錬成材料の宝庫。
丁度良い大きさのコンクリート片を軽く上へ投げる。

「見せてやろう!わがアームストロング家に代々伝わりし芸術的錬金法を!!」

落ちてきた破片を錬成陣の彫られた手甲で殴る。
その瞬間ばちっと光が放たれたと思うと、
一瞬にしてコンクリート片は鋭く大きな矢へと変化し、スカーへと一直線に飛んで行く。
対してスカーは向かって来た矢を少し頭を動かして回避するが、
それを見越していたアームストロングは次の攻撃を繰り出す。

「少佐!あんまり市街地を破壊せんでください!!」













何とか立ち直ったロイ。
アームストロングが錬金術を語り始めたのを尻目に、ロイはへと近付いた。
スカーとエドワードの間に入るを見た瞬間、ロイは心臓が止まるかと思ったのだ。
ロイはに手を伸ばし、雨で額に張り付いた髪を払ってそっと触れた。
体は濡れて随分冷えてしまっていたが、微かな温もりを確かに感じ、
ロイはただそれだけで心底安心出来た。












「壊して創る!!
 これすなわち大宇宙の法則なり!!」

軍服の上着を脱ぎ捨てたアームストロングの周りに
光る星のような物が見えるのは気の所為ではないだろう。
これにはスカーも呆れている。
すかさずハボックとリザの突っ込みが入った。

「なぜ脱ぐ」
「て言うか、なんてムチャな錬金術…」

そんな鋭い突っ込みも気にせず、アームストロングは話を続ける。

「なぁに…同じ錬金術師なら、ムチャとは思わんさ。そうだろう?



 スカーよ」



それを聞いたロイの顔は驚きで溢れていた。

「錬金術師…奴も錬金術師だと言うのか!?」
「やっぱりそうか」

エドワードはうすうす感づいていたのか、苦い顔をする。
錬金術の錬成過程は大きく分けて「理解」「分解」「再構築」の3つ。
スカーは、2番目の「分解」の過程で錬成を止めていたのだ。
それを聞いたハボックは納得のいかない顔をした。

「自分も錬金術師って…じゃあ奴の言う神の道に、自ら背いてるじゃないですか!」
「ああ…しかも狙うのは決まって国家資格を持つ者というのはいったい…」

エドは俯いていた顔を上げた。

「大佐…」
「何だね」
「大佐が到着する前、がスカーに言ったんだ。
雨の中だったから少ししか聞こえなかったけど、『復讐はやめろ』って」
「復讐…?」
「後、倒れた時…多分意識失う直前に、オレ…聞い」

その時、銃声が5発、続けざまに轟いた。
ロイはハッと音の方を向く。
アームストロングがスカーを包囲するまでの時間を稼ぎ、
追いつめておきながらも間合いを開けた所をリザが狙ったのだ。

「やったか!?」
「速いですね…一発かすっただけです」

その1発は米神から血を流させていた。
何とか踏みとどまったスカーのサングラスは落ちて割れている。
スカーは一つ息を吐くとロイを睨み付けた。
露わになった目を見た瞬間アームストロングは驚愕した。

「褐色の肌に赤目の…!!」
「…イシュヴァールの民か…!」

「…やはりこの人数を相手では分が悪い」
「おっと!この包囲から逃げられると思っているのかね」

ロイが右手を挙げると、周りの憲兵はそれを合図に銃を構えスカーを狙う。
それをスカーは一通り見回すと、右手を高く上げ勢いよく地面へ掌をついた。
ついた瞬間赤い光が走り、スカーの中心に半径5メートル程の地面が音を立てて崩れ落ちた。
ハボックが銃を構えながら陥没した穴を覗く。

「あ…野郎、地下水道に!!」
「追うなよ」
「追いませんよ、あんな危ない奴」

そう言ってハボックは穴から離れる。

「すまんな、包囲するだけの時間をかせいでもらったというのに」
「いえいえ。時間かせぎどころか、こっちが殺られぬようにするのが精一杯で…」

その時、道の片隅から男がひょっこり現れた。

「お?終わったか?」
「ヒューズ中佐…今までどこに」
「物陰にかくれてた!」

そう言って親指をグッと立てるヒューズに、ロイは呆れ顔だ。

「おまえなぁ…援護とかしろよ!」
「うるせぇ!!俺みたいな一般人を、
 おまえらデタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ!!」
「デタ…」
「オラ!闘い終わったら終わったで、やる事沢山あるだろ!
 市内緊急配備。人相書き回せよ!」

青筋を幾つも浮かべるロイはお構いなしに、現場の指示を出すヒューズだった。
その時、2人に弟の名前を呼ぶエドワードの声が聞こえた。

「アルフォンス!!」

壁に寄りかかるアルフォンスの右の脇から右の足にかけての部分が、
スカーに分解されて路地のあちこちに落ちている。
分解で剥がれた所為でむき出しになった中身は、何も無かった。
エドワードは俯くアルフォンスに近付くが、肝心の弟は反応を返さない。

「アル!大丈夫か、おい!!」
「この…バカ兄!!」

ごん、という鈍い音がした。
まさか殴られると思っていなかったエドワードは、数秒頬を押さえたまま固まった。
アルフォンスの抗議に、エドワードは最初困った顔をしながら答えていたが、
抗議の猛烈さに、徐々にムキになっていった。
12歳で国家資格を取ったエドワードや、いつも兄と間違えられるアルフォンスは、
辛い過去を持ち、今は目的の為に旅をしている所為か、2人とも大人びた雰囲気を出していた。
しかし今、エドワードとアルフォンスは、年相応の会話を繰り広げている。
そして遂にアルフォンスはエドワードの胸ぐらを掴んだ。

「何度でも言ってやるさ!!
 生きて生きて生きのびて、もっと錬金術を研究すればボク達が元の体に戻る方法も…
 ニーナみたいな不幸な娘を救う方法もみつかるかもしれないのに!!」

アルフォンスはエドワードの胸ぐらを掴み、自分へと近づける。
エドワードは、マシンガンのように思いを吐き出すアルフォンスに圧されていた。

「それなのに、その可能性を投げ捨てて死ぬ方を選ぶなんて、
 そんなマネは絶対に許さない!!」

そこまで勢いよく言うと、アルフォンスの右腕はベキャっという音と共に、
エドワードの胸ぐらを掴んだまま落ちた。

「ああっ、右手もげちゃったじゃないか。兄さんのバカたれ!!」

それを見たエドワードは困った顔をして、それから少し笑った。

「ボロボロだな、オレ達。カッコ悪いったらありゃしねえ」
「でも生きてる」


「うん……生きてる」


瞳を閉じたエドワードに、リザが自分の上着を掛けて微笑んだ。












ロイはに自分の黒いコートを掛けると、そっと抱き上げた。
そこへヒューズが来て、を顔を覗き込んだ。

「この子が?」
「…ああ」






何故君はここに居るんだ?
君はどうしてスカーの目的を知っていた?







君は一体…何者なんだ?











 

ちゃんが何者だろうと、ロイの思いは変わりません。
というか変わらせません(笑)

今回今までの中で一番長いです。多分。
大半が原作と同じの部分なので、もっと時間掛からないと思ってたら、大間違いでしたv
どうしても台詞が多くなってしまって、それを直すのに時間掛かったみたいです;