イシュヴァールの民と国側は、宗教的価値観の違いからしばしば衝突を繰り返していた。
しかし13年前のある日。
軍将校が誤ってイシュヴァールの子供を射殺してしまった事を機に、大規模な内乱へと爆発した。


暴動は更なる暴動をよび、いつしか内乱の火は東部全域に広がった。
7年にも及ぶ攻防の末、軍上層部から出された作戦は、
国家錬金術師も投入してのイシュヴァ−ル殲滅戦だった。
戦場での実用性を試す意味合いもあったのだろう。
多くの術師が人間兵器として駆り出されていった。













「私もその一人だ」

イシュヴァール殲滅戦に至るまでを話し終わったロイは、閉じていた瞳を静かに開く。
話している間、閉じていた瞼の裏にはあの時の状況が鮮明に映し出されていた。

「だからイシュヴァールの生き残りであるあの男の復讐には正当性がある」
「…くだらねぇ。関係ない人間も巻き込む復讐に正当性もクソもあるかよ。
 醜い復讐心を『神の代行人』ってオブラートに包んで崇高ぶってるだけだ」

それを聞いたヒューズは、険しい顔をしながら言った。

「だがな、錬金術を忌み嫌う者がその錬金術をもって復讐しようってんだ。
 なりふりかまわん人間ってのは一番やっかいで、怖ぇぞ」

しかし、なりふりかまっていられないのは軍側も同じ。
我々もまた、死ぬ訳にはいかない。
そう言ったロイは言葉を続ける。

「次に会った時は、問答無用で---------------潰す」

そう言い放ったロイに、部下達は肯定するように視線を向けた。






「さて!辛気臭ぇ話はこれで終わりだ」

膝をぱしっと1つ叩いたヒューズは立ち上がると、
エドワードとアルフォンスにこれからの事を聞いた。

「アルの鎧を直してやりたいんだけど、オレこの腕じゃ術を使えないしなぁ…」

そこへすかさず軍服の上着を脱いだアームストロングが筋肉隆々に現れる。

「我輩が直してやろうか?」
「遠慮します」

即答するアルフォンスにエドワードは苦笑した。

「アルの鎧と魂の定着方法を知ってんのはオレだけだから…
 まずはオレの腕を直さないと」
「だね」

そこである事に気が付いたリザは、口元に手を添えて呟いた。
そしてハボック、ヒューズ、ロイが言葉を続ける。

「そうよねぇ…錬金術を使えないエドワード君なんて…」
「ただの口の悪いガキっすね」
「くそ生意気な豆だ」
「無能だな、無能!」

本当な事だけに、アルフォンスはフォローが出来なかった。

「いじめだ――――!!」

エドワードは、なくなった右腕の付け根をさすりながら溜息をつく。

「しょうがない…うちの整備士の所行ってくるか」

















ふと目を覚ますと、白い天井が目に入り、薬品独特の匂いが微かに漂ってきた。
見覚えのある部屋。
そう…この世界に来て目を覚ました時も、あたしはこの部屋で眠っていたんだ。

スカーは殺してくれなかった。
人に自分の死を委ねる事は、卑怯な事だとわかっていても、
あの時死ねたらどんなに楽だっただろうかと思ってしまう。

天井が滲んだ。
涙を隠すように腕を目にあて、声を押し殺し、ベッドの上で泣いた。



♪〜♪♪〜♪〜♪〜



いきなりの音に肩を揺らした。
音の発生源はサイドテーブルに置かれた自分の唯一の所持品から。
ゆっくりその方を見やると、携帯はランプを点滅させている。
ロイの家で鳴った時とは違う曲だ。

驚きに目を見開きながら、震える手を携帯に伸ばす。
ゆっくり伸ばされていく手とは逆に、携帯は相変わらずテンポの速い曲を発していた。




















医務室に向かう廊下を歩くエドワードは、隣を歩くロイに先程言い損ねた事を伝えようと口を開いた。

「大佐…さっき言い損ねたんだけど」
「何をだ?」
が…多分気ィ失う直前だと思うんだけど、オレ聞いたんだ」
「…?」

俯いている為に、ロイからエドワードの表情を窺う事は出来なかったが、
雰囲気だけは読み取る事が出来た。

「アイツ―――――『死なせて』って言ったんだ」

立ち止まったロイをエドワードが振り返る。
思いも寄らなかった言葉に、一瞬言葉が詰まった。

「っ、それは…聞き間違いじゃ、ないのかね?」
「……」
「そんな事!今日の朝も、昨日電話した時も、はそんな事微塵も感じさせなかったぞ!」

珍しく声を荒げるロイから目を逸らしたエドワードは、また歩き出した。
それを追うようにロイも続く。
その後医務室の前に来るまで、2人は何も喋る事が出来ずにいた。
しかし、その沈黙はある音で乱される事になる。

「…? 何だこの曲?」
「中から聞こえるな…」

ロイが医務室のドアを開けようとノブに手を掛けようとした時、音が途絶え、
代わりに聞こえたのは、紛れもなく渦中の人物の声だった。
















ディスプレイには前回メールが来た時と同じように、あたし自身の電話番号が表示されている。
震える手で通話ボタンを押し、携帯を耳にあてた。

「…もしもし」
『いい加減に気付いてよ』
「っ!?」

聞こえるのは紛れもなく、自分の声だ。


なんであたしの声?
なんであたしの電話番号?


そう考えているうちにも、心臓は早鐘を打ち続ける。
電話の向こうの相手は、自分の心の内を読んだかのように返事を返した。

『それは、あたしがあなただから。
 あなただからあなたの声、あなただからあなたの電話番号。もちろんメアドもね』
「あなたがあたし…?」
『もういい。教えてあげるよ?あたしそろそろ限界なんだから…














 あなたは人体錬成を犯して、ここに居るのよ』





『あたし』が言ったあたしの真実は、頭の中を真っ白にして、思わず携帯が落ちそうになった。
何も言葉の出ないあたしに、『あたし』は言葉を続ける。

『最初は事故だったのよね?あなたはお祖父ちゃんの書斎の整理中に本を見つけた』

真っ白の頭の中にあの時の状況が戻ってきた。
あたしの奥深くに閉ざされていた真実。

『あなたはあたしに言った。あれは事故だ、自分は錬金術を使えない』

人体錬成の対価は、自分の体全て。

『分解される中、あなたは手に入れた真理を使って2度目の人体錬成を犯した』

1回目の錬成で手に入れた人体錬成の真理を使い、
分解される中自分の体を新しく錬成した。

『あたしは体を手に入れた。あなたも体を手に入れた。でも2度目の対価は?』








「今、までの…日常…」










『くすくす、やっと思い出した?』


『あたし』が喋る分だけその時の状況が戻ってきた。
まるで洪水のように…閉ざされていた記憶と閉ざされていた真理が逆流して、
あたしは2度目の苦痛に悲鳴を上げた。

「ぅ…ああっ!いやあぁぁぁ!」
『思い出さなくて良い事じゃないのよ?忘れてた間、良いご身分だったみたいね』
「っ、はぁっ、はぁっ…うるさ…」
『これが真実。あなたは人体錬成を犯してここにいる』








「っ!五月蠅いっ!」









その直後携帯は宙を舞い、壁へとぶつかる。
がしゃん、という耳障りな音と共に無惨な姿へ変わってしまった携帯は床へと落ちた。











こんな醜い自分、知らなかった。









 

やっとちゃんが辿り着いた真実。
今回ロイとの絡みが皆無でした;
次回は絡めると思います・・・