自分の存在がこの世界に必要ない物でなくて良かった



















「なぁ…ひとつ、聞いて良いか?」
「? なに?」

エドはアルと一度顔を見合わせてから、またあたしの方を見た。
その緊張した面持ちを見ていると、こちらまで緊張してくる。

「オレたちの身体…ちゃんと元に戻る?」

エド達の願いは、叶うかどうかもまだわからない願い。
賢者の石を手に入れて、身体を元に戻すという大きな目的。
ううん。エドだけじゃない、目的を持って生きている人は沢山居る。
そう、ロイだって…

「ごめんね、あたしはその答えを持ち合わせてない…
 この世界は、その本と似ているだけらしいから、あたしの知っている事と違う方へ進むのかもしれない。
 それに、それ以前にあたしは結末を知らないの…
 『鋼の錬金術師』はまだ途中までしか出版されてないから」
「そっ、か…」

手に入れることが出来るかわからない伝説の石。
それを見つける為のあてのない旅。
エドもアルも、心の隅では不安でしょうがないんだろう。



無責任な事は言えない。でも、これだけは言える。

「でも、信じてるよ。目的を達成出来ると」

エドとアルに…そしてロイに言った。
少し驚いた顔をしたロイに、あたしは微笑んだ。

















エドとアルは出発の準備をする為に、ひとまず宿へ戻ると言って出て行った。
となると、必然的にこの部屋の中にはロイとあたしの2人に。
さっきまでは2人が居たからどうにかなっていたんだろうけれど、
この状況の中で、あたしの中に閉じ込めた筈の気持ちがじわりじわりと戻ってきた。
更に、2人とも何も喋らない所為か、余計に意識してしまう。
頭の中でぐるぐると考えていると、不意にロイが口を開いた。

は、私の目的を知っているんだね」
「っ…あ、うん」

ロイは弱く微笑んだ。

の『信じてる』は強いな…
 私はその目的を達成する為に決意はした。だが…漠然とした不安は消えなかった。
 さっきの言葉は、私にとって一番欲しい言葉だったのかもしれない」


ロイの意外な言葉に少し驚いた。
でもあたしは、前の世界でも、今も、ずっと信じてるから。

「大丈夫だよ。ロイは絶対大総統になれる」
「…ありがとう…君の言った『大切な人』というのが羨ましいよ」

そう言ったロイは、椅子からベッドの淵へと座り直す。
その動作を目の端で捉えながらも、あたしの思考は別の方へと向いていた。

(大切な人って…ロイだよ…)

この世界での自由を手に入れた。
その自由は、ロイに、この想いを届けても良いという事にもなる。

「それを聞いた時、私は嫉妬したよ」
「嫉…妬?」

ロイの真っ直ぐな瞳が、あたしを見据えた。











「私は君を愛している」










「…うそ」


「君が想う大切な人が他にいたとしても、私の気持ちを知っておいてほしかった」

そう言うロイの顔が段々滲んでくる。
滲むロイの表情は少し慌てた風に変化した。

「っ、すまない…を悲しませる為に言ったんじゃないんだ。
 さっきの話は…忘れて良い」



ロイのばかばか。



「ばか!忘れられるワケないないじゃん!
 そんな事言われて、忘れるなんて…出来ないよ!」

あっけにとられたロイの顔は、すぐに哀しい顔へと変化した。

「そうだな…いきなりこんな事言われて、忘れろって方が無理だな。
 言わなければ良かったのかもしれない…元の関係には戻れない、だろうな」
「あたしは元の関係には戻りたくない…






 あたしの『大切な人』は…ロイだよ…ロイが一番大切な人。







 ロイのことが、好きだから…」







俯いた反動で、ぽたりぽたりとベッドに染みを作る涙。
ロイへの想いが溢れて止まらない。




好き




好き




好き




大好きだよ







微かな嗚咽が零れた瞬間、あたしの視界は真っ暗になった。
その暗闇はロイがあたしを抱き締めた所為だと認知するのに時間は掛からなかった。

「ふ…ひっく…ロ、イ…?」
「こんなに嬉しいことは無いよ」

すっぽりとロイの腕に中におさまったあたしは、上から掛かるロイの声に耳を傾けた。
ロイの低い声と、少し強めに抱き締めてくる腕と、ロイの温かさが心地良い。

「ずっと君を守る。そして君の持つ過去を私も一緒に支えるから。
 が傷付かないように、ずっとこの腕で…」
「あたしも…ロイを支えたい。ずっ、と」

ロイの腕が少し緩んだ。
あたしの肩に軽く乗せられていたロイの頭は少しずつ離れ、
離れ際にロイの唇があたしの目尻を掠めていった。
唇が触れた瞬間、涙の最後の一雫を吸って。








…愛してる」














当たり前のように2人の唇は触れあって








ほんの少しの離れて












そしてまた、2人はゆっくりと唇を重ねた。













 

ハッピーエンドです。
あ、いえ、まだエンドではありませんがね。
ちょっぴり弱気なロイになっちゃいました。
でも良かった、結ばれて。