窓際に立ち、何も言わずに外を眺める男がいた。
彼は何も言わず、外を見つめてただ思いを巡らせていた。





そこへ、ノックの音が響き渡る。


彼はハッとした様子でドアの方を振り返り、ドアの向こうに返事を返した。

「入りたまえ」
「失礼します。大佐…ちゃんと仕事をして下さい。残業する私達の身にもなってほしいです」

部屋に入ってきた女性は、入るなりデスクを見てそう言った。
大佐と呼ばれた彼のデスクは広かったが、書類がスペースの大半を占拠している。
彼はそのやや棘のある言葉を軽く流すと、また視線を窓の外に向けたのだった。
そして静かに口を開いた。

「…嫌な雨だ」
「雨の日は特に無能になるから、ですか?」

「特に」を強調されたような気もする。
いつもなら其処で反論が返ってくる筈が、今日は返ってこなかった。
返ってこない反論に多少驚いた彼女だが、少しいつもと違う上司の次の言葉を待つべく口を閉ざした。

「何かが違うんだ…何かが…」
「それは一体…」

その時、空気を裂く様な音と薄暗い闇を切り裂く閃光が一瞬辺りを包んだ。
それは彼には見覚えのあるものだった。
彼は、銃を持つと黒いコートを着て廊下へと飛び出した。
突然の上司の行動に呆気にとられた彼女だったが、直ぐに我を取り戻して上司の後を追う。

「大佐。先程のは?」
「あれは錬成反応だ。それもかなり強い反応…」
「まさか錬金術師によるテロ…」
「可能性は高い。銃はいつでも抜けるように」
「わかってます」

先の音と光は、建物の中央にある中庭のから発せられたものだった。
2人が其処へ到着すると、残業で残らされていたらしい部下数人が既に中庭の入口に集まっていた。

「あ、大佐!一体さっきのは何スか?」

その中でも一際背の高い煙草をくわえた彼が尋ねる。
上司への言葉遣いが多少失礼な様だが、上司の方はあまり気にしていない様子だ。

「さっきのは錬成反応だ。全員銃はいつでも抜けるようにしておけ」
「錬成反応…術師ですかい」
「私がまず行こう。何かあったら後ろから援護を頼む」

彼は光の発せられた場所へ静かに且つ早足で近づき、
草の所為で死角となっているその場所の様子を一度窺った後、草を掻き分けて銃を向けた。
後ろで待機していた部下達は息を飲んだ。
だが、彼は直ぐに銃を降ろし、何故かコートを脱ぎ始める。
上司の意外な行動に呆気にとられた部下達は、自分たちから見えない草の後ろを覗き込んだ。
だが、何とそこで見た光景は、あまりにも意外すぎた。
一人の少女が横たわっていたのだ。

「お、女の子!?」

そう叫んだ彼の口から煙草が落ち、地面でじゅっと音をたてた。
彼の上司は少女にコートをかけると、すぐさま抱き上げて建物の中へと運び入れたのだった。
















あったかい。
もう少し寝てたいなぁ。

…っていうか、あたし、いつ自分の部屋に戻って来た?

「ぱちっ」という音がぴったりな勢いで目を開けると、そこには真っ白な天井。
周りは見たことのない内装。

一人慌てふためいていると、いきなり部屋のドアが開いて金髪で茶色の瞳をした女の人が入ってきた。
突然の外国人さん登場で狼狽えるあたしだった。
が。
何処かで見たことのある顔のような気がする。

「あぁ、そんなに警戒しないで良いのよ。あなたの敵じゃないわ」
「へ?」
「私はリザ・ホークアイ。貴方の名前は?」
「…、です。えっと、名字は
「そう、っていうの。よろしくね」

そう言われて差し出された手を握り返す。

リザさん、か…ん?
ちょ、ちょっと待って下さい。
リザって、あのハガレンのホークアイ中尉ですか!?
ぐ、軍服同じだ!
って事はあたしはまさか…

またまた一人で慌てふためいていると、
ホークアイ中尉は「少し待っていて」と言い残して部屋を出ていった。











「失礼」

ドアに顔を向けると、そこには男の人が。
後ろにはホークアイ中尉の姿があった。
この人を呼びに言っていたようだ。
黒い髪で黒い瞳の軍服を着た男の人…あたしはこの人を知っている。

「初めまして、お嬢さん。私はロイ・マスタング」
「あ…です。

名前を告げると彼はにっこり笑った。
やっぱりだ。
焔の錬金術師までも登場したと言うことは、あたしの考えている事は間違っていないらしい。



でも、あまりに突然で、非現実的で、ありえない出来事だ。




「早速だけれど、はどうやって此処へ入ったんだい?」
「え?」
「門には憲兵が居たはずだ。一般人は入れない。それに、君は錬金術を使ったね?」

錬金術。
それはハガレンの世界では当たり前のように使われているが
あたしの世界では、書物は残っていても使える人はいない。

「あたし、錬金術は使えません…と言うかあたしの世界に錬金術を使える人はいない」
「世界?大佐、一体…」
「あたし、祖父の書斎で本の整理をしてたんです。でも気が付いたらいつの間にか…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
 君の話は、『君はこの世界の何処でもない、他の世界から来た』。
 という感じに聞こえるのだが…」
「…はい」

大佐は顎に手をあて、少し考える仕草を見せた。

「錬金術は未知の部分も多いからな…。
 こんな事が起こっても可笑しくないと言えば可笑しくないんだが」

あたしがこの世界に来たのは錬金術の、所為?
ん…なんかひっかかる。
ひっかかるけど、何だろう?
思い出せない。






部屋は沈黙に支配された。
その沈黙の中であたしの頭にふとよぎる。
あたしの世界では今頃どうなっているのか。



お母さんはあたしが居なくなった事、気付いてくれたかな。
家出。誘拐。拉致。
蒸発が一番ぴったりだろうか。








もう、戻れないのかなぁ…





?」
「へ?」

呼ばれて顔を上げると、大佐はあたしの頬に手を添えて目尻を軽く指でこすった。

「泣いてる」
「あ…」

言われて気付く。
途端に、一気に感情が溢れてきた。

「ふ、…うっ」

大佐はあたしを抱き寄せた。
あたしはただその腕に縋り付く事しか出来なくて。

「も…ワケ、わかんなっ…ひっく…」




あたしを抱く大佐の腕に力がこもった。







 

大佐と中尉に会えました〜。2人は名前出てきたけど、他は・・・(汗)
次回あたり出せると良いなぁ。

す、すみませ・・・アップ当初、中尉の目の色間違ってました;
ちゃんと直しておきましたので。
金髪碧眼って・・・これじゃあハボやんか!