「本当にお世話になりました」
「また来てね、ちゃん」
「はい!」
「お姉ちゃん、ばいばい…また遊んでくれる?」
「うん、約束」

しょんぼりしているエリシアちゃんの、その小さな指と指切りげんまんをして、
指を離してからエリシアちゃんの頭を撫でた。

「今度はロイの野郎と一緒に来いや」
「あら、あなた。もしかしてちゃんはマスタングさんと?」
「お?言ってなかったか?」
「もうっ!ヒューズ中佐!」

顔を真っ赤にして抗議するあたしにもう一押し。

ちゃん!是非綺麗な花嫁姿を見せて頂戴ね!」
「グ、グレイシアさんまで…」

ノリノリの2人。
そんな2人に、もう抗議の言葉は出なくなってしまった。

「うぅ…もう時間なので行きますね」
「もうそんな時間か。悪いな、駅まで送れなくて」
「いいえ、大丈夫ですよ。本当にありがとうございました」
「ん、行ってこい」
「いってらっしゃい」
「お姉ちゃん、絶対だよ」

玄関の石段を降りて、ヒューズ家の敷地から出て一度振り向いた。
そして大きく手を振った。



「いってきます!」





















グレイシアさんに描いて貰った地図で、難なく駅まで辿り着くことができた。
ホームの隅っこで暫くトランクに座ってぼーっとしていると、汽車の出発が後5分という位まで迫る。
でもまだ乗らないのは、あたしには中央でまだやる事があるからだ。
トランクから降りると、あたしは電話の方へ向かっていった。

コインを数枚入れ、ダイヤルを回す。
この時間なら、余程の事件がない限りまだ電話に出るはず。
やはり数回の呼び出し音の後、眠たそうな声が聞こえた。

『…マスタングですが』
「ロイ?良かった、まだ家に居て」
『! ?』

一気に目が覚めたような声を出すロイに、こっそりと笑みを零す。
しかし、余計な話をしている時間は無かった。
あと5分もしない内に汽車は出発してしまうのだから。

『ああ…早くが帰って来てくれないと、私はおかしくなりそうだよ』
「あ、あたしだってロイに早く会いたいよ?」

ロイは恥ずかしい事沢山言うけど、それが似合うからおかしい。
日本人はそういう言葉とかに慣れてないから、こっちは心臓がもたない。

「でも…あのね、時間がないから用件だけ言うよ?よく聞いてね」
『愛の告白かね?』
「…」
『冗談だ…用件とは?』
「えーと、1週間帰れません…というか帰りません」

受話器の向こうで何かが割れる音がした。
ロイの事だ。きっとコーヒー飲みながら電話していたのだろう。

『なっ、何故だ!?』
「ちょっと修行に出ようかと思って」
『そんなもの必要ないだろう。は私が守ると…』
「だって…守って貰うだけじゃ嫌だから…」
『しかし…』
「ごめん、もう汽車出そうなの。
 試験の結果がそっちに届く頃には絶対帰るから…心配しないで?」
『待ちたま…』

無理矢理電話を切った。
守られてるだけじゃ嫌っていうのは、ロイが考えている事とは少し違うの。

どうかわかって下さい。




















まさかがそんな事を考えているとは思わなかった。
私は、部屋の机の引き出しから中央の汽車時刻表を引っ張り出した。
今からヒューズに駅に向かうよう頼んでも間に合わないだろう。
汽車の出発間際に電話をすれば、ヒューズをよこす時間が無いと計算してが電話を掛けたのは明白。
ならば、時刻表を見て今の時間に発車する汽車を調べ、どの方面に行ったのか割り出すまで。

朝の静かな住宅街。
部屋の中には時刻表をめくる音だけが響いていた。

「……!」

今の時刻を確認して、必死に時刻表を目で辿り、出た答えは空しい物だった。

「東部も、南部も、西部も、北部も…全て同じ出発時刻ではないか!」

はそれも狙ってこの時刻にしたのだろうか。
時刻表をベッドに放り投げて早足に1階へ降りると、まだ家を出る前であろう親友の家に電話を掛けた。
呼び出し音すら鬱陶しい。

『はい、ヒューズです』
「グレイシアか?マスタングだ」
『あらマスタングさん。ちょっと待って下さいね』

暫くすると、いつもの声がした。
『おー、ロイ。どうした?わざわざエリシアの話聞こうと電話よこしてくれたか?』
「莫迦な事を言うな。の事だ」

ヒューズからの電話の最中は、指を擦る癖がついてしまった。
今は発火布を着けていないから火花は出ない。

『ああ、あいつなら30分位前に元気よく駅に向かったぞー』
「それがだ。さっき電話が掛かってきて、いきなり修行に行くから帰れないって言ってきたぞ!」
『は?…修行!?』
「それについて何か仄めかしてなかったか?」
『何かって言われてもなぁ…あ!』
「何か言ってたのか?」
『いや…ただ、昨日イーストの駅で、に荷物が多いなって言ったんだよ。
 まるで1週間旅行に行くみたいだって』
「くそっ!あの時気付くべきだった…は1週間したら帰ると言い残して電話を切ったんだ」
『まあ落ち着け』

落ち着いていられるか。
この状況の中、冷静な親友に苛々する。

『ロイ、聞けって。は何て言ってた?』
「守られるだけは嫌だ、と言った。私が守るから必要ないというのに…」
『恋は盲目だねぇ』
「は?」

ヒューズの言葉に間の抜けた声が出てしまった。
電話の向こうでくつくつと笑う声が微かに聞こえる。

『いつもは冷静沈着なお前さんが、の事となると見える筈のものが見えなくなる』
「…何が言いたい」
『つまり、の言った「守られているだけは嫌」の意味を、お前は全然違う方向に捉えてる。
 は自己防衛の為に修行しようとしているんじゃない。
 お前を守りたいから修行しようとしてるんだ。
 ちゃんと帰って来るって言ったんだから、そんなに心配するな。
 俺はもう仕事行くから切るぞ、じゃあな』

言われるだけ言われて、切られた。
しかし、ヒューズの言う通りなのかもしれない。
私はずるずると電話の脇の壁に寄り掛かりながら座り込んだ。



確かにあの時よく考えていれば、の気持ちも汲めた筈。
でも私の気持ちもわかってはくれないか?









盲目になる程、君を愛しているんだから。






盲目になる程、君が心配でしかたないんだ。














 

ヒューズはちゃんにとって、この鋼世界での父的存在であって欲しいのです。