「美味いな」
「ホント?良かった〜」
夕飯の支度をし終わって少ししたらロイは帰ってきた。
それからすぐに夕食に。
お母さんがよく作ってくれたキャベツのトマトスープ煮込みを作ってみた。
記憶を頼りに作ったので少し心配だったけど、ロイの言葉に一安心だ。
「私の留守中、何か困った事は?」
「ううん。特には」
「何かあれば東方司令部に電話をかけてくれば良い」
東方司令部 = 軍。
もの凄くかけ難い。
「軍に電話ってかけ難いんだけど…」
「交換手には言っておくから大丈夫だ。名前を言えばすぐわかるようにしておくさ」
「…わかった」
それからロイとこれからの生活についてとか色々と話している内に夕食は終了。
食後のティータイムはロイとソファーに並んで座り、和やかに過ごした。
「ねぇ、ロイ」
「何だ?」
「ロイの留守中、すっごく暇なの」
「…まぁ、この家にあまり面白い物はないな」
「だからさ、何か本を貸してほしいの!」
ロイの家だ。
必ず錬金術に関する本があるに違いないと思ってのお願いだった。
そのお願いにロイは少し考え込む。
「お願いっ」
「…仕方がないな」
「ありがとロイっ!」
錬金術が勉強できる事が嬉しくて、ロイに抱きついた。
抱きついてから急に恥ずかしくなって離れようとしたら、
いつの間にかロイの腕ががっちりとあたしの腰に回っている。
「きゃー!ばか!」
「から抱きついてきたんだろう?」
「ちょっと間違えたの!」
「…わかったよ」
ロイは少し拗ねたように言った。
に本を貸してほしいと言われたが、私が持っている本と言えば錬金術に関する物。
錬金術…それをが学ぶ事になるという事に私は少し抵抗を感じた。
錬金術は便利ではあるが、紙一重で兵器にもなる。
国家錬金術師として参戦したあのイシュヴァールの内乱も錬金術が兵器として使われた。
「お願いっ」
そう懇願されて、私は折れざるを得なくなった。
「…仕方がないな」
そう言った途端、は私に抱きついてくる。
抱きついてくると予想していなかった私は驚いたが、このチャンスは逃さない。
の腰に手を回して離れないようにする。
「きゃー!ばか!」
「から抱きついてきたんだろう?」
「ちょっと間違えたのっ」
「…わかったよ」
今は離してあげよう。
だがその内きっと…いや、絶対に私は君を離せなくなる。
そう思う程に君に惹かれている私が居るんだ。
ロイに案内された書庫は、の祖父が遺した書斎の本と同じ位の量だった。
床から天井、とまではいかなくても結構な高さの本棚が並んでいる。
「結構あるね」
「君はあまり驚かないね」
「?何で?」
「錬金術師の書斎を見て、量に驚く人が多いから」
確かに錬金術師の持ってる本は量が多そうである。
特に国家錬金術師となれば、査定に向けての研究で本も増えるだろう。
「あぁ。お祖父ちゃんの書斎もこんな感じだったからかな。
そこの本、遺言で全部あたしにくれたんだけど、量が多くて1年経っても整理し終わってないんだ」
「へぇ…それはかなりの量なんだろうな」
「あはは、まぁね。お祖父ちゃんはその本達があたしの心の糧になれば嬉しい、って」
「…良いお祖父さんだったんだね」
「うん」
ロイはと話しながら本の背表紙を指で伝いながら本を探している。
間もなくロイの指が止まった。
「これだな。この本の中でも簡単な方だろう」
「ありが…あれ?」
「どうした?」
本を開いては固まった。
記述が全て英語だったのだ。
エドが国家錬金術師の試験に合格して、二つ名を授かった時の書類も英語だった事をは思いだした。
「うそ…」
が学校の授業で1番苦手とした教科。
簡単な単語、簡単な文章位しかわからなかった。
でも、言葉が通じているという時点で矛盾が出てくる。
「苦手教科は英語!のあたしが何でロイとか軍部のみんなとかと普通に喋ってるの!?
普通に日本語で喋ってると思ってたのに!」
「、落ち着いて…ニホン語と言うのはの国の言葉なのか?」
「うん。英語は基本的な単語とか、簡単な文章しか読めない。それに喋るのも苦手」
「不思議な話だな。でも、私はと話せている。それで良いじゃないか」
ロイはにっこりと笑う。
それを見たは頬をうっすら染めてこっくり頷いた。
(そんな笑顔反則くさいよ、ロイ…)
それを隠すように本に視線を落とし、解読を始める。
ページいっぱいに英語が並んで、さながら英語のテストの超長文問題の様だった。
「えっと…錬金術、考えられる?出来る、世界…〜する前に?」
「大丈夫か?」
「うぅ…」
「どの文だ?」
指で文をなぞって示す。
「ここなんだけ―――っ!?」
「この文は、『錬金術では、世界が」
「世界が「すべて」へと分かれていく前には?」
「何だ、読めてるじゃないか」
「ロイ…何これ。読めたんじゃない、わかるの…頭の中に勝手に浮かんでくる」
もロイもわけがわからなかった。
頭に突然浮かんできた文章。
何か特別な事をしただろうかと、は今までの行動を思い出すと、
にひとつ思い当たる点が浮かんだ。
「まさか…指でなぞったから?」
「、この文章はどうだ?なぞってみろ」
「う、うん」
言われた通り、なぞってみるとの顔は驚きに溢れた。
指でなぞるだけで理解できる文章。
なぞるだけならば文章自体を見なくても読むことが出来る。
「すごい!これわかるよ!」
「は一体何者だい?」
「うーん…何者なんだろうね?あはは」
文字を読めるに越した事はない。
この不思議な力をは素直に受け入れる事にした。
受け入れなくとも、消えるような力では無かったが…
「じゃあ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ。あまり夜更かしはしないように」
「うん」
は本を数冊借りて、部屋に戻ってきた。
ロイは、錬成陣を描いても自分が居ない所で使わないようにと言った。
構築式や理論の間違い、代価に使う物をチェックしてからという約束をしたのだ。
も流石にリバウンドは怖いので、二つ返事で了承した。
朝、ロイを送り出したは家事がある程度終わって時間が出来ると、
庭先のテーブルで早速本を読み始めた。
電話が鳴っても、誰か来てもすぐに聞こえるだろう。
暖かな日差しと紅茶の良い香り、日本の様に車も多くなくて静かなここは、読書に最適だった。
昼食も、午前中に作ったサンドウィッチを囓りながら読書に耽る。
は本を夢中で読んだ。
夢中だったから気付かなかったのだ…後ろから近付く人影を。
錬金術はすごく面白い。
あたしは理科や化学は結構得意だったから、この位の基本的な事なら理解しやすい。
次ページへと捲ろうと指を持っていった瞬間、あたしの口に後ろからいきなりハンカチが当てられた。
そのハンカチからは独特の匂いがして、その匂いはあたしの意識を奪っていった。
「っ!?」
誰!?この匂いは…!
まずい…眠く…な…
「抵抗されると面倒だからな。まぁ、大人しく捕まってくれよ」
が最後に聞いたのは男の声。
その男は、意識が無くぐったりとしたの体を軽々と担ぐと、
玄関先に止めてあった車に押し込み、走り去って行った。
おかしい。
何度電話しても、が電話に出ることはなかった。
家には軍回線の電話と一般回線の電話の2つがある。
には昼間に軍の電話が鳴ったら、それは私からだと言ってある。
「どうかなさったんですか?」
電話の前で立って考え事をしていた私を不審に思ってか、
ホークアイ中尉が話しかけてきた。
「が電話に出ないんだ…」
「買い物にでも行ったのではないですか?」
「それはないだろう。はまだこの辺の地理をよく知らない。
家で本でも読んでると思ったんだが…」
段々心配になってきた私は、一旦家に戻っての様子を見に行く事にした。
「良いだろう、中尉?」
「仕方ないですね、が心配ですから」
中尉もには甘いようだ。
静かだった。
鍵は開いていたが家の中には誰も居ない。
「家の中には居ませんね…」
だが、居間の窓から見える庭のテーブルに本が開いたまま置いてあるのを私は見つけた。
「これは…私がに貸した」
その隣にはサンドウィッチが一切れ残っている。
それに飲みかけの紅茶も置きっぱなしで、もう冷たい。
冷たい嫌な汗が背中を伝った。
その時、電話がけたたましく鳴り響いた。
軍回線の方だ。
「私だ。どうした」
『大佐、大変ですよ!
今、司令部宛てに手紙が届いたんスけど、 大佐の家から女の子を誘拐した、って!』
「何だと!?」
『要求は…』
ハボックの話が頭の中に入らず、聞いた傍から抜けてしまう。
ついさっき頭に浮かんだ嫌な想像が当たってしまったのだった。
← →
ちゃん、連れ去られちゃった…