ありがとう





それと





ごめんね




















そこは書庫。
そっとドアを開けると、本棚が幾つも並んで重く腰を降ろしていた。
水溜まりは一番奥の通路へと伸びて本棚の向こう側へと消えている。

静かに問い掛けた。

「…ロイ?」


「っ…来ないで…くれないか」

少しの静寂に返ってきた返事は、すぐに部屋の薄闇に溶け込んだ。
あたしは一番奥から2番目の通路に歩みを進めて腰を降ろした。



















「あたしね…怖いの…」










本棚を挟んで向こう側にいるロイが、少し動いたような気がした。














「ロイに求められた事は、とても嬉しくて…
 でも、初めてで…受け入れたら、自分が自分じゃなくなる様な気がした。
 嬉しい気持ちと、怖いっていう気持ちがごちゃごちゃで、
 ずっと我慢してくれてたロイを拒絶した自分が嫌で嫌で仕方なくて…



 でも。
 こんな中途半端な気持ちでロイとしたくないの…



 セントラルから帰ってくるまでに、やる事やって、ちゃんと気持ちの整理してくるから…」







ロイにずっと笑っていて欲しいの。






だから。












「それまで。もう少しだけ…待って欲しい」


















ロイから返事は無かった。
あたしは静かに立ち上がって扉の方へ向かい、ドアの前で一度振り返ってロイの居る方を見た。
そっと両手を合わせ、少し眼を閉じる。

「ロイ言ったよね?何とも思わないのか、って」

再び眼を開けて手を降ろし、次の言葉を紡いだ。











「あたしも…1分1秒だって…沢山、ずっと、ロイの傍に居たい…」






そう言い残して部屋を後にすると、じわりと溢れた涙で視界が滲む。
あたしだって、ロイと同じ気持ちなんだよ…?


























淡い光が自分を包んだ事にはっと顔を上げた時、柔らかな風がふわりと私の頬を撫でた。
風が消える頃、自分の身体にまとわりついていた水が消えていた。

「あたしは…1分1秒だって…沢山、ずっと、ロイの傍に居たい」






静かにドアが閉まる音と共に、の気配は遠ざかっていった。











私はわかっていた筈なんだ。
の気持ちは私と同じだという事を。
私は帰ってくる彼女を待とう。
もうあんな表情(かお)はさせない。













すまなかった





そして





ありがとう









 

ゆっくりとした時間の流れは、やっぱりなかなか難しいですねェ…