「行くな」とは言わない
パズルは1ピースでも欠けたらダメだから
ロス少尉とブロッシュ軍曹がテーブルの上にセントラル市内の地図を広げる。
あたしは一人窓際に立ち、ぼんやりと話を聞いていた。
「これ…何の建物なんだろう」
エドの指差した先を見てロス少尉が手元の資料で確認を取った。
ぱらぱらと紙を捲っていた音が止まる。
「以前は第五研究所と呼ばれていた建物ですが、現在は使用されていないただの廃屋です。
崩壊の危険性があるので、現在は立ち入り禁止になっていたはずですが」
それを聞いたエドがはっとした。
「これだ」
「え?何の確証があって?」
ブロッシュ軍曹の質問に対し、閉鎖を意味する大きなバツの書かれた第五研究所の隣をエドは指差した。
『 Central prison(中央刑務所) 』
しかしエドの意図が読み取れなかったブロッシュ軍曹が言葉を濁す。
「賢者の石を作るために生きた人間が材料として必要って事は、材料調達の場がいるって事だ」
処刑後、遺族に返されない遺体。
表向きには刑務所内の絞首台で死んだ事にし、秘密裏に生きたまま研究所へ移動させる。
そして賢者の石の実験に―――
「そうすると、刑務所に一番近い施設があやしいって考えられないか?」
「…囚人が材料…」
「嫌な顔しないでくれよ。説明してるこっちも嫌なんだからさ」
「うう…さんは平然としてるけど平気なの?」
「平気じゃないですけど、大丈夫です」
苦笑するあたしに、「そう…」と遠い目で一言呟きつつ手元の資料に目を戻すロス少尉。
「! 刑務所がらみって事は、やはり政府も1枚かんでるって事ですか!?」
「1枚かんでるのが刑務所の所長レベルか、政府レベルかはわからないけどね」
事の重大さに今更焦り始めた護衛の2人にアルが呆れ声を出す。
しかし、現時点ではアームストロング少佐の言う通り推測に過ぎず、
国は関係なく、この研究機関が単独で行っていた可能性もある。
第五研究所の責任者"鉄血の錬金術師"バスク・グラン准将にカマをかけるというエドの提案も、
グラン准将が先日スカーによって殺害されてしまっている為、叶わない。
「スカーには軍上層部に所属する国家錬金術師を何人か殺された。
その殺された中に、真実を知るものがいたかもしれん。
しかし、本当にこの研究にグラン准将以上の軍上層部が関わっているとなると、
ややこしい事になるのは必至。
そちらは我輩が探りを入れて、後で報告しよう」
アームストロング少佐は地図を丸めて脇に抱える。
そして護衛の2人にこの件についての扱いを命令した。
一切他言無用
「殿もな」
「はい。わかってます」
「うむ。エルリック兄弟も大人しくしているのだぞ!!」
「「えぇ!?」」
わ、分かりやすい…
「むう!!さてはお前達!!この建物に忍び込んで中を調べようとか思っておったな!?」
アームストロング少佐の言葉にぎくりと肩を揺らす、そんな2人に思わず吹き出しそうになってしまう。
「ならんぞ!!元の身体に戻る方法がそこにあるかもしれんとは言え、
子供がそのような事をしてはならん!!」
「わかったわかった!!」
詰め寄るアームストロング少佐に、エドは体をいっぱいに使って否定をする。
「そんなあぶない事しないよ」
「ボク達、少佐の報告を大人しく待ちます」
エドの言葉にアルはこくこくと頷いていたが、
「大人しく」の辺りがごく僅かに強調されていたのはあたしの思い違いではないはずだ。
アームストロング少佐とロス少尉とブロッシュ軍曹がそれに気付いたかどうかは別として。
あれで信じちゃう辺り、アームストロング少佐はある意味凄い。
くすっ、と僅かに漏れてしまった笑いは、エドとアルに聞こえてしまったらしい。
「な、何だよ、」
「ご、ごめん。だって2人は分かりやす過ぎなんだもん」
くすくすと思い出し笑い。
そんなあたしをしばらく呆然と2人は見ていたが、ふとエドが真面目な顔になった。
「オレ達を止めるか?」
その質問に、あたしは表情を消した。
「あたしに……止めてほしい?」
無の表情で言葉を紡ぐ。
エドが僅かに怯んだ。
少しやりすぎたかな。
あたしは薄く微笑んだ。
「行くな、なんて言わないよ」
あたしがあなた達を止めない事、2人とも頭の何処か片隅ではわかってる筈だよ。
2人を前に進ませてくれる唯一の道。そういったでしょ?
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久しぶりの更新です…
お待たせして申し訳ありませぬ;
知的遊戯とは、まあパズルの事です。
次回、やっと2人が第五研究所に向かいます…たんぐ。
あー…ロイとのラヴり(?)を書きたいよ。