世間――――というより、常識から少し外れていて

世の理を捻じ曲げられているような






そんな場所だった



















「!」

夜に再び訪れた兄弟の部屋は既にもぬけの空で、開かれた窓から吹き込む風がカーテンを揺らしている。
ベッドに結ばれた縄は、窓から外、地面へと繋がりしっかりと道を作っていた。


あの時にエドが頷いたのは嘘。


嘘は嘘でも、優しい嘘。


「ばか…!」















「はぁ!?何でまで付いてくるんだよ!」

の提案に、エドワードは信じられないという顔で反対した。
勿論アルフォンスも反対している。

「止めはしない。でも、付いていかないとは言ってない」
「んなのは屁理屈だ!」
…本当に危ないから…だからココで待ってて」

それでも。

「そうだからこそ、だよ」

刹那、騒ぎ立てていた声が消え、辺りがスッと静かになった。

「…わかったよ」
「兄さん!」















雲1つ無い黒く晴れた空に浮かぶ月のお陰か、夜にも関わらず辺りの視界はそれ程悪いとは感じない。
その中をオレとアルは静かに走っていた。

「兄さん…良いの?」
「良いんだ。や少佐達に迷惑かけるわけにはいかない。
 オレ達がこんな身体なっちまったのもオレ達自身のせいだから、
 オレ達の責任で元の身体に戻る方法をみつけなきゃなんねーよ」
「うん、そうだね」

程なくして着いた第五研究所は、使っていない筈なのに建物の門に灯りと門番。
門番の動向をそろりと確認する。

(あやしいね…どうやって入る?)
(入り口、作っちまおうか?)
(それやると、錬成反応の光で門番にバレちゃうかも)
(……と、なると…)

薄暗い周囲をぐるりと見渡すが、どうやら侵入経路は1つしかないらしく、
オレがその場所を無言で指し示すと、アルの方も分かったのか軽く頷いた。
軽く姿勢を低くしたアルの組んだ手に足を掛け、踏み切るようにぐっと力を入れる。
それに合わせてアルの方も力一杯オレの足を押し上げた。

(おわっ)

思った以上飛んだ事に多少驚きながらも、何とか右手は有刺鉄線を。左足は塀の上を捉えた。
有刺鉄線を右手で解き、左手で慎重に伸ばす。

(悲しいけどよ。こういう時には生身の身体じゃなくて良かったって思うぜ)

伸ばした有刺鉄線をしっかりと縛りつけ、反対の端をアルへと降ろすと、
アルは鋭い棘にはお構いなしにそれを握って上り始める。

(ははは…同感)

オレは先に敷地内へと侵入して入り口を探したが、
見つけた扉は何枚も板を打ち付けられて到底入れそうにない。
他にないかと辺りを見回していると、頭上に通風口の様な物を見つけた。
アルの肩に乗る事で何とか届くソレの蓋を外す。

「…奥まで続いてそうだな。アル、ここで待ってろ」
「ええ?1人で大丈夫?」
「大丈夫もなにも、おまえのでかい図体じゃここ通れないだろ。
 んじゃちょっくら行ってくる」





(好きででかくなったんじゃないやい)





背を向けた通風口の入り口から、どこか哀愁漂ってきたのは恐らく気の所為だ。














予想以上の狭さと予想通りの蜘蛛の巣。
そして自分で「身体小さくて良かったと」呟いてしまっての自己嫌悪。

それらを何とかクリアして辿り着いた先の廊下には、足下が見える程度に照明が取り付けられていた。

「何が『現在使われておりません』だ」




ビンゴだぜ!






足下に注意しながら複雑に入り組む廊下を静かに抜け、辿り着いたのはだだっ広い部屋。
ただ、中央に置かれた低い円柱の柱と、それを中心に描かれた六角形が何個も重なった様な陣。
そして、どす黒く変色して固まっている血が、陣の所々にこびり付いていた。
感覚全てが感じ取る、まるで世の理をねじ曲げるような雰囲気。







異質の空間(エリア)







「ひょっとして賢者の石を錬成するための…」




「その通り」


ガシャン


するりと闇から現れた気配を見やると、そいつは全身鎧の姿だった。

「どこの小僧か知らんが、石について深く知っているようだな」

奴は『ナンバー48』、と名乗った。
ここの守護を任されているらしい。

「ここに入り込んだ部外者は全て排除するよう命じられている。悪く思うな、小僧」
「……そっちこそ」

ちゃりと音を立てたヤツの武器は、この辺ではあまり見かけない片刃の剣。
オレは両手を合わせた。

「小僧に倒されても悪く思わないでくれよな」

錬成反応と共に刃と化したオートメイルに、ヤツは感嘆の声を上げている。
そして、その感嘆はそれは上辺だけのもの。

「どれ」

そう聞こえたと思った瞬間、ヤツは大きく踏み込んでオレを射程内に収めていた。

「手並み拝見…」
 速…!

何とか屈む事で避けた一振りが、頭上スレスレを横切って大きく空気を割く。
息つく間もない2回目の攻撃も何とか防御したものの、かなりの衝撃に息が詰まる。
腕と肩の割かれた服の隙間から鋼が覗いた。

「肩まで鋼の義手か。命拾いしたな…だが!

 我が愛刀は鋼さえも貫く!!」

凄まじい速さで繰り出された突き。

「…冗談じゃねぇ!!義手(これ)また壊したら、ウィンリィにぶっ殺されるじゃねーか!!」

ギャリン!

甲剣で逸らせつつ刃を思い切り外側へと弾き、その勢いに乗せて一歩下げた右足へ体重移動を行う。
バランスを崩しているヤツの胴体へ力一杯左足で蹴りを入れた。

「む…!」
「!!」

衝撃音が響いて残っている。

「…おいおいこの空洞音…
 ひょっとしてあんた、その中空っぽなんじゃねーの?」
「――――おどろいたな。良く気が付いた」
「あんたみたいなのとしょっちゅう手合わせしてるんでね。感覚でわかったよ」
「ほう。表の世界にも私と同じのがいるのか」

オレは呼吸を整える為、一度息を吸って吐いた。

「…嫌になるね。オレ以外に、魂を鎧に定着させるなんて事を考える馬鹿がいるなんてよ」

そう言った所、向こうが満足げに笑ったような気がした。
ナンバー48は刀を再びオレへと向ける。

「あらためて名乗ろう。私の"48"は死刑囚ナンバー…
 生前…と言うべきか。生身の身体があった時は、『スライサー』と呼ばれていた殺人鬼だ。
 表向きには、2年前に死刑にされた事になっている」

『スライサー』としての腕を買われての実験材料。
そして今はここの番犬に、か。

血印の事を指摘すると、向こうは親切にそれを見せてくれた。
自分は戦いに緊張感を求めるタイプなのだとヤツは言う。

「親切ついでに、オレをこのまま見逃してくれないかな〜…なんつってみたり」

ヤツがにたりと笑った気がした。








「殺人鬼が目の前の獲物をだまって逃す訳なかろう?











 いざ、参る!」

























「やられた!」

揺れるカーテン、開いた窓、ベッドに縛られた紐、紐の先。
これだけ揃えば、何が起きているのかなどすぐに分かる。

「やけに静かだと思ったら……」
「あ〜〜〜職務怠慢でアームストロング少佐にしぼり上げられるぅ〜〜〜」
「…あのガキども〜〜〜っ!!護衛するこっちの身にもなれ言うのよ!!」

ぶるぶると体を震わせるロス少尉の米神に、幾つもの青筋が浮かぶ。

「ったく、どこ行ったのよ!!」
「ロス少尉!これ!」

ブロッシュ軍曹がテーブルに置かれていた1枚のメモを発見した。
それを手に取ってみると、そのメモには走り書きながらも綺麗な字で一言だけ綴られていた。

『 先に2人を追います。  』

「…!」
「え…さんまで!」
「行くわよ!」

コートを羽織りながら廊下へ出たロス少尉に、ブロッシュ軍曹が慌てて付いていく。

「ど…どこへ!?」
「決まっているでしょう!









 元第五研究所よ!!」














 

はたして夢と言えるのか。
ヒロインが殆ど出ないってのは致命的だ…