「あぁ、じゃあまた詳しい事は電話する……うん、うん。悪ィな」

がしゃんと受話器を置く。
オレは、向こうから返ってきた予想外の反応に安堵の溜息を吐いた。

「もしかして二股?」
「誰が二股かぁーッ!!」
ぶぶしッ

後ろから突然掛かった言葉に驚いて力んだせいか、腹の傷から勢いよく血が噴き出した。


あー、ブロッシュ軍曹が叫ぶ声が遠くから聞こえる。

あれ?

川の向こうで手を振ってるのは母さんじゃないか?




















「何だ二股じゃないのか…」
「アイツはただのオートメイル整備師!」

カラカラと車椅子を押すブロッシュ軍曹の顔はにやにやとエドワードを見ていた。
その様子にエドワードが内心どきまぎとしていると、ブロッシュ軍曹が更に爆弾発言を吐く。

「まあ、さんが居るもんねぇ〜。二股するわけないか」
「はぁ?何でそこでが出てくんだよ」
「え。2人は付き合ってるんじゃないの?」

いたってそれが自然だ、と言わんばかり。
一瞬、エドワードの思考は停止した。

「んなワケねぇだろうがー!」
「何だ。さん、崩壊寸前の研究所に君を助けに入ったからてっきり付き合ってるのかと…」
「…え…助けに?」

ブロッシュ軍曹は、アルフォンスを助けに入った時の事をエドワードに話した。
それを聞いたエドワードが考え込むように俯いた為、ブロッシュ軍曹はエドワードを覗き込んだ。

「そ、か。には危ない思いさせたな…まあ軍曹の勘違いだよ、勘違い」
にはもう大事な人が居るんだから。

エドワードはふと顔を上げ、少し笑った。










からからと小さな音を立てながら車椅子は廊下を進み、ブロッシュ軍曹が自分の恋話を始めた頃。
エドワードの視界に、アルフォンスの姿が入った。

「あれっ、アル…何やってんだそんなすみっこで」

それなりに大きな声を出したつもりが、アルフォンスが反応を返さない。
考え込んでいるらしいアルフォンスには聞こえなかったようだ。

「おーい?アル!」

びくりと揺れた体。
ようやく気付いたらしい。

「兄…さん」
「そんな所いないで部屋行かないか?」

弟はじっと兄の顔を見る。
弟にとって、それが何分だったのか何刹那だったのか大きく錯覚する程にその時間は重く感じられた。

「ん?」

ふいっと視線を外す。

「…ううん、何でもない。今行く」
「? 先行ってるぞ」

おかしな弟に多少の疑問を感じつつ、エドワードはその場を離れた。

残されたアルフォンスが覗いた鏡には、鎧の姿をした自分が映り込んでいる。
そっと鏡に触れると、そこから感じる冷たいという錯覚。







『その人格も記憶も、兄貴の手によって人工的に造られた物だとしたらどうする?』






『認めちまえよ。楽になるぜ?』







力の加減を忘れた震えた手。
ぴしっと軽い音を立てて鏡に入ったヒビ。
この心さえも偽りなのかと。



自分の心が果敢なく崩れていくような、そんな感覚だった。

























何も言わずに病院を後にした。
恐らく、今自分はとても酷い顔をしているだろう。
涙だけはあの屋上で止めてきたものの、この状態で誰かとまともに話せる気がしなかった。









明日、2人に話そう。


勇気を出して。


国家錬金術師になった事、まずはわかってもらおう。









1つ1つ解決しないと。









そうしないと、あたしは前に、進めない。









 

あっぷあっぷ(溺)