電話の向こうから聞こえる惚気話に、貴様の表情すらリアルに想像できてしまう。
空いた手は自然と指を鳴らしてしまうが、何が起こるわけでもなかった。















『だ・か・ら・よ!うちの娘が3歳になるんだよ!』
「…ヒューズ中佐…私は今仕事中なのだが」
『奇遇だな、俺も仕事中だ』

周りから集まる視線は居心地が悪く、特に、自分のすぐ後ろから感じる鋭い視線が痛い。
軍の回線で自分の娘の惚気話をするなと言えば、妻も自慢だ、と屁理屈を言う。
私の指が一際大きく鳴った。

『―――っと、スカーはどうなった?』
「まだ発見されていないが、かなり大規模な爆発で身元不明の遺体も多数出てるからな。
 あるいはその中に…
 東部近隣での目撃情報もないから、やはり死んだものとする意見が大勢を占めている」
『じゃあエルリック兄弟のガードは解けるのか?』
「ああ、彼らがセントラルにいるのなら、セントラルの担当に判断を任せよう」

一呼吸の合間、電話の向こうでヒューズが口の端をつり上げた気がした。

『その担当だがな、国家錬金術師を統制する軍上層部の奴らがスカーに殺られて人員不足になってる。』
「ほぉ」
『マスタング大佐のセントラル招聘も近いって噂だぜ』

左手に持っていた受話器を右手に持ち替えるが、受話器を当てるのは左耳。
くるりと向きを変えてデスクに寄り掛かる。

「セントラルか…悪くないな」
『気を付けろよ。その歳で上層部に食い込むとなると敵も多くなる』
「覚悟はしている」
『おまえさんを理解して支えてくれる人間を1人でも多く作っとけよ』


「…はどうしてる?」
『元気にやってる、今はちょいと外してるけどな。お前達早く結婚し
「余計なお世話だ!!」

がしょん!と半ば投げつけるように受話器を置くが、
すぐに、後ろのホークアイ中尉から静かな怒りの声が聞こてきた。
貴様の所為だぞ、ヒューズ。





















あたしは、エドの病室の隅っこに、テーブルと椅子を引っ張ってきて座っていた。
ベッドの上には、昨日よりも明らかに包帯の数が増えたエドの姿。
ベッドの傍らにはアルが座っていた。
テーブルの上で作業をしていると、不意にエドが口を開いた。

…研究所に助けに入ってくれたんだって?」
「え…あ、うん」
「ありがとな」

ふるふると首を振る。
実際あたしは何もしていない。出来ていない。
再びテーブルへ視線を戻す。

「最近疲れてるみたいだけど、大丈夫か?」

エドの言葉にハッとなった。
今のあたしは疲れているように見えるらしい。
疲れているわけではない…ただ、悩んではいた。
いつ、あの事を言おうかと。

「平気だよ」

にこりと微笑んでみせたが、それがエドにどう映ったのかは、あたしにはわからなかった。

「そ、っか。なら良いんだけど…って、さっきから何作ってんだ?」
「これ?今日はエリシアちゃんの誕生日だから、プレゼント」
「へー」

テーブルの上にはキラキラと光を反射する何色ものビーズ。
それとシンプルなシルバーのチェーン。
やはり女の子は可愛い物やアクセサリーに興味があると思い、材料を揃えてきたのだった。




こんこん




ノックから間もなく扉が開き、
ブロッシュ軍曹、ロス少尉、アームストロング少佐、そして金髪の女の子・ウィンリィが、
ぞろぞろと病室へ入ってきた。

「そんな!…こんな大ケガで入院してるなんて聞いてないよ!」

どさっとウィンリィの持っていた長めの箱が床に落ちた。

「いや、本来はこのケガの半分以下だったのだが…」
「エド!!」

と、アームストロング少佐による被害についてエドが話すと、ウィンリィも呆れ顔。
くるくると余分な包帯やらガーゼやらを取り払いながら、エドは愚痴を零す。

「くそ…お陰で入院が長引いちまった」
「鍛え方が足りんのだ!」
「少佐と一緒にしないで下さい!」

ウィンリィが一度溜息をついた。

「それにしても…少佐の分を差し引いたってひどいケガじゃない」
「大した事ねーよ、こんなの。すぐ治るケガだ」




「…オートメイルが壊れたせいでケガしたのかな…
 あたしがきちんと整備しなかったから…」




しん、と静まった病室に、エドがあたふたし始める。

「べ、べつにウィンリィのせいじゃねーよ!」

しゅんとなったウィンリィを気遣い、エドはオートメイルが壊れたのは自分の所為だ、とか、
そのお陰でケガが少なくて済んだ、とかぺらぺらとしゃべり始める。
まあ捻子のしめ忘れに気付いていないエドに、ウィンリィの方は結果オーライだ。

「そうね!あたしのせいじゃないわね!んじゃ早速出張整備料金の事だけど!」

オートメイルってホント凄くお金掛かるんだなぁって思っているうちに、
エドが牛乳を残しているのが見つかり、ウィンリィにお説教を食らっていた。

2人の取っ組み合う騒音の中、ぱたんと静かに扉が閉まる。
突然出て行ってしまったアルに、みんなは少し困惑しているようだった。


アル…もう少し、もう少しでわかるから。
大丈夫だよ。











「紹介遅れちまったけど、えっと、そこに座ってるのが…」
です。初めまして、ウィンリィちゃん」

椅子から立ち上がり、ウィンリィの方へ向き合った。
近付いて手を差し出すと、それをウィンリィは嬉しそうに握りかえしてくれる。

「初めましてさん、ウィンリィ・ロックベルです」
「ウィンリィちゃんにさん付けされるとくすぐったいかも。
 呼び捨てで呼んでくれると嬉しいな。タメ口だともっと嬉しいかも」
「ホント?じゃああたしの事も呼び捨てで!」

ウィンリィの嬉しそうな笑顔に、久しぶりに本当に笑えた気がした。









再び椅子に座り作業を再開させるのと同じくして、エドのオートメイルの整備も始まった。
アクセサリーの最終的なデザインを紙にざかざかと書いてみる。
エドとウィンリィは、様子のおかしいアルについて話していた。

ビーズとチェーンを左の掌にのせ、上から右手を被せる。
ぼぅっと淡い光が溢れだし、静かに錬成が始まった。

「ブロッシュ軍曹、そろそろ入り口の警護交代し―――っ!」
「ロス少尉?どうしたんですか?」





…も、もしかして…」





ふと聞こえたあたしの名前に、ロス少尉の方を見た。










「朧の錬金術師!」





急速に光を失った手。




かしゃん、と雫を象った石が零れ落ちた。









 

ついにバレた…