ロス少尉の声が頭の中に叩き付けられる。
その空間は、ほんの数秒だけ、時を止めた。














手から零れ落ちたエリシアちゃんへのプレゼント。
あたしの手からテーブルまでの間、その数秒は短くて長かった。

「あ…」
「今までの多大なご無礼失礼致しました!」

びしっとあたしに敬礼をしたロス少尉に倣い、慌ててブロッシュ軍曹も敬礼をする。
しかしブロッシュ軍曹は、まだ状況が飲み込み切れていないようだった。

自分の名前、二つ名、それらはまだ軍の中ではそんなに知れていないと思っていた。
しかし、まずその認識から甘かったのだ。
いくら最近配属されたばかりといえど、少なからず知っている人間は必ず居るもの。

「前々からどこかで聞き覚えのあるお名前だと思っていたのですが、
 先程の錬成反応を見てやっと思い出しました。二つ名の由来ともなったそのひか
!」
「ちょっ、まだ整備終わって…」

状況に対処し切れていないあたしの名を、ロス少尉の言葉を遮るようにエドが大きく呼んだ。
びくりと肩が揺れる。

「お前、国家錬金術師に…なったのか」

唇を噛みしめながら、こくりと頷いた。

「ごめん…」
「っ、馬鹿野郎!何で…何でだ!
軍には絶対服従なんだぞ!戦争にだって…くそっ!」

やっと状況を飲み込めたらしいブロッシュ軍曹。
呆気にとられているウィンリィ。

エドは拳を強く握りしめていた。

「――地位が欲しいわけじゃない。権力が欲しいわけじゃない。覚悟は出来てるの。
 傍で支えられれば良いって思う…同じ国家錬金術師として」

エドがハッと顔を上げる。

「…目的の、為…」

エドは握りしめていた拳を解き、微かに笑った気がした。

「ありがと…エド」

再び部屋の中が静かになった。

「あ、あの…もしかして言ってはいけない事でしたか?」
「いえ…いずれ言わなければならない事でしたから。
 あと、敬語とかは止して下さい。今まで通りに接してくれると嬉しいです」
「ですが…」
「…じゃあ、それは命令です」

あたしがにこりと笑うと、ロス少尉は困ったように笑った。















その後完成させたエリシアちゃんへのプレゼントをラッピングしながら、今までの事を話し始めた。
アルにはまだ何も話せていないが、エドにわかってもらえただけでも気持ちが楽になったの感じる。

「エドとアルが東部を出発した日に、セントラルに来て試験を受けたんだよ。
 1週間後に合格通知が来て、その後すぐに東方司令部に配属になったの」
「ったく…お前は本当に馬鹿だ」
「ん、馬鹿でしょ」

エドのその言い方は、先程とは違って怒りが何処にも見あたらないもの。
エドは笑って許してくれた。

「『目的の為に』。それはオレも同じだからな。その気持ちはわかる…」




「はいっ、整備終了!」
「お、サンキュー」

調子を確かめるようにエドは腕をぐるんぐるんと回す。
そんなエドは、折角ウィンリィが労りの言葉も掛けても軽く流す始末だ。
うーん…ウィンリィはエドのこと心配してるのに、それは無いと思うんだけどなぁ。

「はぁ、もう良いわ。あ、ねぇねぇ!」
「ん?なに?」

エプロンを外しながら、ウィンリィが目を輝かせてコチラを見た。

の二つ名って"朧"なんだよね?何で"朧"なの?」

あたしの二つ名の由来。
エドの場合は右腕と左足がオートメイル―――つまり鋼である事からきているのだが、
自分の場合は外見とは全く関係ないので、わかりにくい部分でもあるだろう。
百聞は一見にしかず。
胸の前で手を少し広げ、あたしは錬成を始めた。

こぽっ

手と手の間に、静かな淡い光と共にどこからともなく水が生まれる。

「わ…何?この光。すごくキレイ…」
「試験の時もこんな感じで錬成反応が起こったから、それがそのまま二つ名になったみたい」

…それ、錬成陣…」

言葉は少なかったが、エドが何を言いたいのかわかった。
あたしは手を合わせていない。

「手を合わせるのは切り札にしたいの。なるべく使わない事にしてる」
「切り札か…オレはそんな事関係無しに使ってるからなぁ」

服に隠れて見えなかったネックレスを取りだして2人に見せると、
ウィンリィは目を輝かせてくれたのだが、一方エドは一瞬にして顔面蒼白に。
口をぱくぱくさせ、1点を指差す姿は面白すぎる。

「そっ、そそそ…その紋章はっ!」

ふふ、と笑うと、エドは一気に脱力してベッドに倒れ込んだ。

「はぁ…は馬鹿じゃなくて、大馬鹿だったか。
 あー、そしたらオレも大馬鹿か…うん、大馬鹿だな」














この病室に、ヒューズ中佐の声が高らかと響くのはもうちょっと後のようだ。













 

約2週間ぶりのアップです…
お久しぶり過ぎて申し訳ございませぬ(´д`;)