信じられないけど信じたい。
信じたいのに信じられない。

















こつり、こつりと響く足音。
ひゅう、ひゅうと通り抜ける風の声。
屋上へと続くその階段には、その2つの音しか存在していなかった。
扉を抜けた瞬間、一際強い風があたしと擦れ違う。

「アル…」

何枚もの白いシーツの向こう側に、アルは1人静かに座っていた。
ふと目が合う。

…」

傍まで行ってアルの隣に座った。

「風、強いね」
「うん…」

そうアルが呟いて、屋上はまた静かになる。
ふと、少しだけ鎧の中に入り込んだ風が起こす微かな音に気が付いた。

第五研究所。
あの時からアルはずっと悩んでいる。
誰にも言えず、答えも見つけられないまま迷って。

信じられないけど信じたい。
信じたいのに信じられない。

その矛盾した気持ちの所為で、ただ混乱してるんだよね。
そうなると、自分の事が急にわからなくなる。

「あのね、アル。怒っても良いから、聞いて欲しいの…」
「…?」

「国家錬金術師になったの」

アルは何も言葉を発しなかったけど、息を飲んだような雰囲気であたしを見た。

「人体錬成したあたしのこの身体は…造り物でしょう?」
「っ、…それは違うよ!だって自身の魂が…」
「それでも…元の身体は代価として差し出した…等価交換だから」

静かに苦笑いすると、アルが俯いた。

「でも、この身体でも…大好きって言ってくれる、人が居てっ。
 その人の支えになれるなら、あたしは何でもしよう、って思うから――!」

喋っている内に溢れてきた涙は、瞬きをする度にぽろぽろと涙が零れ落ちてゆく。
止まらない。

「っごめ…泣くつもりじゃ…なかったのにね」
…?」

ぱたぱたと埃を払いながら立ち上がり、あたしはアルと真っ直ぐ向かい合った。
困ったようにあたしを見上げるアル。
エドとアルの問題だから、これ以上の事をあたしは何も言えない。
2人で解決しなきゃ意味がないから。





あたしのこの身体が、魂が、記憶が、人格が、自分自身で造り上げた偽物でも。
あたしのこの身体が、魂が、記憶が、人格が、自分自身で造り上げた本物でも。
どちらにしろ、自分の事を自分で本物だって思えば、それが偽物でも本物になるんだと思う。
だから、今ここに在るあたしは確かにあたしという本物。
そしてそんなあたしを愛してくれる人が居る。
それと同じように。

ここに在るアルは確かにアルという本物であって存在。

だから。







「思い出してほしい」







「な、にを――――」

言葉を遮るように、一度だけその少年の身体を抱き締めて、すぐに離れる。
そのまま走って屋上を後にした。










ね、思い出して。











 

「ここに在る〜」は駄洒落のつもりでは…ないです…