大丈夫。

もう怖くない。















雨は弱まる気配を見せない。
車から降りたやロイや、その場全員服を濃い色へと変化させる。

「ハボック少尉とブレダ少尉の隊で建物を囲め。作戦中外に逃げ出した奴等を捕縛させろ」
「「了解」」

両名が自分の隊へと命令を伝えに走って行く。
の視界に、前髪から滴った雫が一瞬だけ入ってきたのだが、
それをさして気にする様子もなく、憲兵が建物を囲んでいく様子を眺めていた。




「大佐!俺の隊は包囲が完了しました!」
「俺の隊も完了しました!」
「よし。まず私と少佐の2人で突入する…まあ、お前達は静かになったら入って来い」

そう言うと、ロイはの方を向いた。

「初任務だな」
「…まあ、まずは足手纏いにならないようにしますよ」

ふ、と口の端を上げるロイに、は少しぎこちなく微笑み返した。



自分の国では命の危険とは殆ど縁の無かった君が、
自ら危険の中へ入っていく為、「恐怖」という感情に耐えるという事。

気丈に振る舞おうとする彼女の表情に、胸が痛んだ。





「大丈夫さ、君は私が守ると言っただろう」
「! あ、あたしだってロイを…」

咄嗟に口を手で覆う。
今は任務中だと分かっていた筈なのに、ファーストネームが口をついた。
ロイがの手をやんわり外させる。

その想いが有れば、大丈夫。

ロイの瞳から伝わってくる事には落ち着いたのか、微かに微笑んだ。

「作戦開始だ、少佐」
「はい。マスタング大佐」







一歩前に出る。
一度深呼吸してからゆっくり両手を広げると、仄かな光がの胸の辺りにぽつりと発生した。
それを周囲の人間が認知した瞬間、それは一瞬にして大きく広がって消え去った。

ぱきん

ロイが指を鳴らすと、さほど時間差もなく大きな爆音と共に建物の入り口は見事に吹き飛んだ。
乾いた地面。
晴れの日と変わらぬ湿度。
乾いた服と発火布。


雨が消えた。


しかし空は灰色のまま、遠くの建物は霞んで見えている。
その通常有り得ない状況に、周りの憲兵は驚きの声を上げた。

「大佐!あと十秒も持ちませんから!」
「突入するには充分だ」

大佐と少佐の階級を有する2人が先陣を切って突入すると、既に銃を構えた男達が待ちかまえていた。



ぱきぱき…ピシィッ



「そんな物騒な物を向けないで下さい」
「ぐぁっ!れ、錬金術!?」

持っている銃と一緒に男達の手は氷で固められ、指一本動かせもしなかった。
建物の中へ入った事で雨の心配の無くなったロイが、
銃ごと腕を氷で固められた男達に次々と焔を浴びせていく。
しかし時間が経つごとに、焔の威力が落ちてきている事にロイは気が付いた。
これは湿度が再び高くなってきている事を示し、それは自身も最初からわかりきっていた事だ。

もう一度意識を集中させる。

しかし。
氷の塊にされた腕を逆に武器として、1人の男が後ろからへと殴りかかってきたのだ。
別の方へ意識を集中させていただが、難なく屈み込んでそれを回避すると、
勢いよく右足で男の顎を蹴り上げた。
意識を飛ばして倒れ込む男を尻目に、は再び意識を集中させた。
の周りに集められた水分は幾つもの塊になり、それらはふよふよとの周りに浮遊している。

「大佐!」
「ああ」

再び威力の増した焔が、敵の体を包む。


しかし、容赦なく攻撃を繰り出すロイ対して、佇むだけのは恰好の標的。
手は氷漬けの為に発砲は出来ないが、全員で一斉に攻撃すれば小娘1人程度は倒せると思ったのだろう。
それは大きな誤算なのだが。
ロイの焔に蹴散らされて徐々に数が減りながらも、確実に敵はへと近付いていた。

自分より力が劣ると思った者からか…

ロイは微かに舌打ちを漏らしながら、一撃で敵を倒せて且つに被害の及ばない焔を起こすべく、
先程よりも更に精度の高い酸素濃度の調節を開始した。



だが肝心のは、相手の位置を落ち着いた様子で全て確認していた。
そしてが全ての敵の位置を把握し終わった瞬間、周りを浮遊していた水の塊が瞬く間に消え失せた。



敵もロイも何が起きたのかと動きを止めた次の瞬間、全ての敵が空中へと浮いた。
見れば氷の柱が敵の人数分だけ床から生え、それぞれの敵を空中へと突き上げたのだ。
どしゃっ、という重たげな音と、短いうめき声が上がった。















静かになったのを見計らって現場にリザが入ってきた時、
呆気にとられた表情のロイと、大きく息を吐いて緊張を解くの2人だけが立っていた。









 

戦闘シーン初挑戦。
難しい…