泣いた事で熱を持った目元を濡らしたタオルで冷やすと、
水はひんやりと、熱を吸い取っていった。

「はー…」

そろそろ戻らないと病室にヒューズ中佐が来る頃だろう。
洗面台の鏡を覗き込み、眼の赤みが取れたのを確認して1度軽く頬を叩く。

「しっかりしろ、自分」

大丈夫、きっと大丈夫だから。















エドの病室に近付くにつれ、そこから漏れる賑やかな声に気が付いた。
どうやら、ヒューズ中佐が来たらしい。

「へっへっへ。今日は午後から非番だ!」
「へー…軍法会議所は最近多忙極めてて休み取れないって言ってなかったっけ?」
「心配御無用!」

びしっと右手を広げて前に突き出したヒューズ中佐に苦笑い。
可哀想だなぁ、あの人も…

「シェスカに残業置いて来た!」
「あんた鬼か…」
「非番ついでにおまえさんの様子を見に来たってのあるが、もうひとつ」

そこで一旦言葉を切ったヒューズ中佐がこちらを見て手招きをしたので、それに従って横まで行く。
もしかしてスカーの件についてだろうか。

も国家錬金術師だ。聞いとけ。
 スカーの件も情報が入ってな、もうじき警戒も解除されそうだ。」
「え、本当?」
「本当に!?」

エドが「鬱陶しい護衛から解放される」だとか愚痴っている中、
ヒューズ中佐があたしに一度片目を瞑ってにやりと笑った。
どうやら、先日話したあたしの情報をひっそりと受理させたらしかった。

「護衛って…あんたどんな危ない目にあってるのよ!」
「う!!いやまぁなんだ!気にするな!
 たいした事じゃねーよ!」

「………そうね、どうせあんたら兄弟は訊いたってあたしには言わないもんね」

少し怒気を含みつつ、ウィンリィはすっとエドから視線を外す。
しかし、自分の口から出た言葉に居たたまれなくなったのか、すぐに話題を切り換えた。

「じゃあ、また明日ね。あたしは今日の宿を探しに行くわ」
「軍の宿泊施設なら、国家錬金術師(オレ)の名前で格安で泊まれるぞ」
「えー?軍のって何かおカタそう」
「あたしも軍の宿泊施設はあんまり泊まりたくないなぁ…」

あたしがウィンリィと妙な所で合意していると、ヒューズ中佐に頭を小突かれた。

「お前さんは軍人だろうが…」
「うーん…ちょっと寝るだけの仮眠室とかは別に気にしないんですけど、
 ちゃんとした宿泊施設となるとウィンリィと同意見なんですー」

「よくわからん…そうだウィンリィちゃん!なんならうちに泊まってけよ!」

突然の申し出にウィンリィが困っていると、ヒューズ中佐はそんな事お構いなしに、
ウィンリィを引っ張ってずるずると連れ出した。
それはもう高らかと笑いながら。


「あ。ヒューズ中佐ー。あたしもすぐ行きますからー」

「わっはっはっは。待ってるぞー!」






















プレゼントを宿に取りに戻ってから、ヒューズ中佐の家へ向かう。
着いてみると、そこにはエリシアちゃんのお友達。そしてその親御さん達が大勢。
久しぶりに会ったグレイシアさんとお喋りをしながら料理を運んでいると、
エリシアちゃんがあたしの方にぱたぱたと走ってきた。

お姉ちゃん!」
「こんにちは、エリシアちゃん」
「こんにちは!あの、ね…このまえの、約束…」
「うん、いっぱい遊ぼうね!」

前回泊めてもらった時にした約束。
もじもじとしていたエリシアちゃんの表情がぱぁっと輝いて笑顔になった。

「料理も揃った事だし、そろそろ始めましょうか!」

グレイシアさんの言葉に、みんなテーブルへと集まり始める。
エリシアちゃんはもちろんお誕生日席で、その両脇にヒューズ中佐とグレイシアさん。
あたしはウィンリィの隣だ。




「エリシアちゃん、お誕生日おめでとー!!」



エリシアちゃんがゆっくりと蝋燭の火を消し終わるのと同時に、
ぱん、ぱん、とクラッカーが弾けて紙吹雪が舞う。
みんなからも拍手が起こった。

数え切れない程に沢山のプレゼントをエリシアちゃんが1つ1つ開けていくと、
ふと、ある箱から可愛い犬のぬいぐるみが出てきた。
どうしてそのぬいぐるみが気になったかと言えば、それはどこか見覚えのある犬なのだ。

「…?」
「わー!お姉ちゃん、イヌさん可愛いね!」
「あ…うん、可愛いね!」

お腹全体と顔が少し白。
ここれだけならばあまり気になる事もないのだが、しかし次のポイントが重要だった。

くりくりとした目の上に、まろ眉があるのだ。
まさかと言うか、もしかしてと言うか、これは確実に、

「ブラハ!?」
「は?ブラハ? おー、それはロイからのだな」

ロイからの…プレゼント?

「――ぷ、っあはは!」
「おわっ!何だ、いきなり笑って!」
「だ、だって…!あんな真面目な顔でこんな可愛い物錬成するなんて!」
「これ、ロイが錬成したのか?」
「リザさんの飼ってる犬で、よく司令部に連れて来てるんですよ。まろ眉がすごく可愛いんです」

ぎゅーっとブラハを抱き締めながら、
ぽかんとあたしとヒューズ中佐を見上げるエリシアちゃんの頭をひと撫でする。

「今度、ロイおじさんに『かわいいイヌさん錬成してくれてありがとう』ってお礼言わなきゃね」
「ははは。おじさんときたか」
「れんせー?」
「うん、『錬成』って所を強調するんだよ?」
「わかったー!」

にこーっと笑ってブラハを隣に置いたエリシアちゃんは、プレゼント開きを再開した。
次に出てきたのはゼンマイ仕掛けのねずみのおもちゃ。
ゼンマイをまいても動かない事に気が付いたエリシアちゃんが、ヒューズ中佐に見せている。
あたしは、近くでグレイシアさんと話していたウィンリィに事の次第を話した。

「あ、やっぱり歯車が外れてる」

ドライバーで部品を外しては上手にはめていくという作業を行うウィンリィの器用さに、
あたしからもみんなからも感嘆の声が漏れた。

じー、という音と共に動き始めたねずみに、周りの子供達の目は輝いた。

「すごいすごーい!おもちゃのお医者さんだ!」




思った事を素直に表現できる子供の心は、とても良いものだと思う。






あたたかな人々。


あたたかな雰囲気。


あたたかな家族。


あふれる幸せ。





壊さないように。


壊させないように。









でも




正直、



怖いんだ。













 

本当はパーティを全部入れたかったんですけど、長くなりそうでダメでした。
途中で切るならここだ、と思ったので、ヒューズとウィンリィの会話はまた次回という事で…