溢れて
零れて
落ちてゆく
不安、恐怖という
心を雁字搦めにしていたものが
するりと解けていった
ただ、あなたの事を思い出すだけで
あたしの背を、何も言わずにさすってくれるウィンリィの手が温かかった。
「ありがと。ウィンリィ…」
「ん?」
顔を上げたウィンリィは優しく笑っていた。
背を撫でていた手が離れ、あたしの手を握ってくれる。
「最近、ちょっと気持ちが混乱してて…自分の事がわからなくなってた…」
「うん…」
「でもね、ウィンリィと話してたら…忘れかけてた事、思い出せた」
ぐいと残っていた涙を拭ってウィンリィを見た。
ウィンリィの手を握りかえして、少し笑う。
「あたしの全部を助けてくれたあの人の為に……だから頑張れるんだ、って。
だからありがとう、ウィンリィ」
「…その彼は幸せ者だね。にこんなに愛されてるんだもん」
悪戯っぽく笑ったウィンリィに、少しだけ頬が熱を持つ。
あ、と思い出したように、
ウィンリィは『彼もの事いっぱい愛してくれてるんだね』と付け加えた。
「〜〜っ!はぁ…意地悪だなぁ、ウィンリィは」
「あははっ、今度会わせてね!」
「うん!…あれ?もしかしたらウィンリィは1度会った事ある、かも」
「えっ、うそ!誰誰!?」
「ロイ・マスタング」
「あ。11歳の時にエドとアルを勧誘しに来た…!」
ウィンリィは当時の事を話してくれた。
当時11歳だったウィンリィの見たロイは、怖く厳しいイメージがあったという。
しかし、ウィンリィは最後にこう言った。
「でも、が好きになるんだもん。マスタングさん、優しい人なんだね」
一瞬呆気にとられたあたしは、ウィンリィのその言葉に笑顔を浮かべる事で返事を返した。
ヒューズ家の玄関口。
ヒューズ中佐、グレイシアさん、エリシアちゃん、ウィンリィにお見送りをしてもらっていた。
「今日は招待して下さってありがとうございました」
「またいつでも遊びに来てね、ちゃん」
「はい。エリシアちゃんもまた遊ぼうね」
「うん!」
「ウィンリィ、また明日病院でね」
「うん、待ってるよ〜」
最後に、ヒューズ中佐に向き直る。
「中佐…最後に少しお話があります」
「ん?……わかった。グレイシア達は先に中に入っててくれ」
ヒューズ中佐の言いたい事をすぐに感じ取ったグレイシアさんが、
エリシアちゃんとウィンリィの背を押した。
「わかったわ。じゃあね、ちゃん。おやすみなさい」
「お姉ちゃんまたね!」
「おやすみ、」
「うん、おやすみなさい」
ぱたりと扉が閉まる音と共に、辺りには静寂が戻ってきた。
玄関の外に取り付けられた小さな灯りと、虫の小さな声。
「話って何だ?」
「…」
こくりと唾を飲み込む。
なかなか切り出せないあたしを、ヒューズ中佐は何も言わずに待っていてくれた。
「何か、気付いたら…」
「『何か』?」
「―――気付いたら、気付いていないフリをして下さい」
「?あ、ああ。わかった」
「それだけ…です。おやすみなさい、ヒューズ中佐。また明日病院で」
去り際に見たヒューズ中佐は一応わかってくれた様子だったが、
少し呆気にとられたような表情をしている。
この反応は当たり前だろう。
今のあたしの話には足りない部分が多すぎる。
でも。
これ以上は言えない。
言えないんだ。
明後日の夜、あたしはヒューズ中佐の所に居て。
そして、彼の暗殺を必ず阻止してみせる。
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あと、約48時間