突き抜けるように青くて

どこまでも広くて

どこまでも同じで

必ず繋がっている



あたしは空を眺めています
















病院を訪れると、廊下でウィンリィとばったり会う事ができた。

「おはようございます。中佐、ウィンリィ」
「おっはよー」
「おお、おはよう」

昨晩ヒューズ中佐に話した事について、中佐から特に何も聞かれなかった。
『気付いていないフリをして下さい』
それをそのまま受け取ってくれたようだ。
扉の前にいる護衛2人にも挨拶をし、ウィンリィが扉を開けた。
瞬間。


「ボクは好きでこんな身体になったんじゃない!!」


アルの大きな声に、空気が強く震えた。


「…好きで…こんな身体になったんじゃない…」

強く握りしめられたアルの拳が、小刻みに震えている。
エドもウィンリィもヒューズ中佐も呆然とし、ロス少尉やブロッシュ軍曹は状況が掴めていない。

「あ…悪かったよ」

自分の言葉の軽率さに気が付いたエドが俯いた。

「…そうだよな。こうなったのもオレのせいだもんな…
 だから1日でも早く、アルを元に戻してやりたいよ」
「本当に元の身体に戻れるって保証は?」
「絶対に戻してやるからオレを信じろよ!」

「『信じろ』って!! この空っぽの身体で何を信じろっていうんだ……!!」

中身のない鎧。
魂だけの存在。

アルは無意識に自分の両手を見た。
それは自分の存在を確かめる為に。

「錬金術において、人間は肉体と精神と霊魂から成ると言うけど!
 それを実験で証明した人がいるかい!?」

アル…

「『記憶』だって突き詰めればただの『情報』でしかない……人工的に構築する事も可能なはずだ」
「おまえ何言って…」
「…兄さんは前に、ボクには怖くて言えない事があるって言ったよね」

ねぇ、アル…気付いて。

「それはもしかして、ボクの魂も記憶も、本当はでっちあげた偽物だったって事じゃないのかい?」

アル…思い出してよ。

小さく呼んだアルの名前は、声にならなかった。
アルがずっと溜め込んでいた気持ちが、決壊して流れ出す。

「ねぇ兄さん、アルフォンス・エルリックという人間が本当に存在していたって証明はどうやって!?
 そうだよ…ウィンリィもばっちゃんも皆でボクをだましてるって事もあり得るじゃないか!!
 どうなんだよ兄さん!!」

ガンッ!

しん、と静まった病室に、フォークが落ちる金属音が甲高く突き抜ける。
両の拳で机を思い切り叩いた体勢のまま、エドはアルに問い掛けた。

「―――ずっと、それを溜め込んでたのか?

 言いたい事は、それで全部か」

押し殺したようなエドの様子に、アルは少しだけ怯みつつ頷いた。

「―――そうか…」

静かに立ち上がったエドは、アルを、ウィンリィを、あたし達をすり抜けて無言で廊下を歩き出した。
ウィンリィが名前を呼ぶのも聞こえないのか、そのまま突き当たりを曲がって見えなくなる。

「…カ…」

微かに聞こえた声にアルが振り返った時、そこには既にスパナを振りかざしたウィンリィが。

「バカ――――っっ!!」

金属同士がぶつかって大きな音を立てた。
ぐわんぐわんと音が響く。

「いっ…いきなりなんだよ!!」
「はー、はー…」

肩で息をするウィンリィの目から涙が零れ落ちた。
ぼろぼろと落ちる涙にウィンリィはぎゅっと唇を結ぶ。

「ウッ…ウィンリ……」
「アルのバカちん!!」

焦り始めたアルを余所に、ウィンリィは再びスパナでアルの頭を殴った。

「エドの気持ちも知らないで!!
 エドが怖くて言えなかったって事はってのはね…
 アルがエドの事を恨んでるんじゃないかって事よ!!
 オートメイル手術の痛みと熱にうなされながら、あいつ毎晩泣いてたんだよ…」



  アルがあんな姿になったのはオレの所為だ。
  あいつは、食べる事、寝る事、痛みを感じる事が出来ないんだ。
  
  きっと恨んでる。
  
  怖いんだ。
  
  怖くて訊けないんだ。




「それを…それなのにあんたはっ…」

何度も何度もスパナでアルを殴るウィンリィはぺたりと座り込んだ。
しかし尚、スパナで殴る事をやめなかった。

「自分の命を捨てる覚悟で偽物の弟を作るバカがどこ世界にいるってのよ!!

あんた達、たった2人の兄弟じゃないの…」

ようやくスパナを降ろしてウィンリィはぐいっと涙を拭う。
しかし、睨み付けるようにアルを見た後、びしっと廊下を指差した。

「追っかけなさい!」
「あ……うん」

ようやく病室から出てきたアルの名前を、無意識に呼んでしまった。
こんな急いでいる時に、呼び止めるつもりなんかじゃなかったのに。

「アル…」
「っ!…あ…ボク…」
「いい。あたしはいいから、追いかけて」
「で、でも…」
「良いから早く!」

アルが背を向けて走り出してから、ひとすじ涙が零れた。
この中で唯一あたしの真実を知っているヒューズ中佐が、少し乱暴だったけど頭を撫でてくれた。

「大丈夫か?」
「アルの方がもっとたくさん辛い筈だから…」

アルの思いは、あたしの存在自体も崩すような話だった。
しかし、前にアルに話した通り、あたしは自身を信じて生きていくって決めたんだ。


だから大丈夫だよ。


















一通り戦い終わって、2人は屋上のコンクリートの上に寝転んでいた。
お互い思っていた事を吐きだして、沢山の思い出話をして、
改めて決意して、そしてもっと強くなろうとお互いの拳を軽くぶつける。

「ねぇ兄さん」
「何だ?」
「前にがここでボクに言ったんだ。『思い出して』って。
 それは、ボクはボクという存在だと言う事、思い出せって事だったんだ…」
「!そうか!じゃあイーストシティ出る時に『お互いのことを信じろ』ってのは今回の事だったのか…」











「ヒューズさん。やっぱり口で言わなきゃ伝わらない事もありますよね」

「そうだな」








まだ本調子じゃないのに運動したエドを、アルが支えながら2人はこちらに向かってくる。


…さっきはごめん、なさい」
「ん?何が?」

あたしは何も無かったように笑いかけた。

「ねぇアル。もっと自分信じよ?」

「え……あ、うん!!」











突き抜けるように青くて

どこまでも広くて

どこまでも同じで

必ず繋がっている



あなたは空を眺めていますか?
















 

あぅぅ…前話では色々と手違いがありまして、ご迷惑をおかけいたしました…
うぅ〜ん、相変わらずロイが出てきません_| ̄|○
次回辺りちょこっと出したいナァとか考えてるんですけどね…