たとえそれが卑怯だと言われようとも

それでも自分は…




やるしかないんだ















ざかざかとペンを走らせるエド。
顔を上げ、書き終わった物をヒューズ中佐とアームストロング少佐に見せた。

「で、こいつに蹴られた後はもう覚えてない」
…顔が怖いよ?」
「ぇ、うそ!」

エンヴィーとの嫌な出来事を思い出していた所為か、無意識にしかめっ面になっていたらしい。
慌てて両頬に手をあてると、教えてくれたアルはくすりと笑った。
エドの話を一通り聞き終わった所で、ヒューズ中佐は情報を整理する為に重要な部分を復唱する。

「魂のみの守護者…貴重な人材…生かされている…エンヴィーなる者…
 マルコー氏いわく、東部内乱でも石が使われていた…」

優秀な錬金術師を人柱の候補として生かしている。
あたしもその中に入っているというエンヴィーの言葉。
最初は驚いた。
何故自分が…そう思った。
でも、今はそれを逆に利用させて貰うつもりだ。
人柱として生かされているのならば、向こうはあたしを簡単には殺せない。
それはあくまで『今の所』だけれど、こちらは思い切り戦えるのだから。

「ウロボロスの入れ墨に、賢者の石の錬成陣…」
「ただの石の実験にしては謎が多いですな」
「これ以上調べようにも、今や研究所はガレキの山だしな」

情報の少なさと、これからの情報収集の難しさに、みんなが首を傾げて一斉に唸る。

「軍法会議所で犯罪リストでも漁れば何か出てくるかもしれねーな」
「我輩はマルコー氏の下で石の研究に携わっていたと思われる者達を調べてみましょう」

コンコン

どうやらあの人が来たようだ。

「失礼するよ」

思わぬ人物の突然の来訪に、周りが一斉に息を呑む。
あたしも驚いているフリをしなければ可笑しい場面だろうと思い、一応驚く。

「キング・ブラッドレイ大総統!!」
「ああ、静かに。そのままでよろしい」
「はっ…」
「大総統閣下、何故このような所に…」

焦っているみんなとは対照的に、大総統はのほほんと手に持った物をエドへ差し出す。

「何故って……お見舞い。メロンは嫌いかね?」
「あ、ども」

エドは大総統のペースに乗せられて差し出されたメロンを受け取ったが、
受け取った瞬間我に返って思わず自分に突っ込んだ。

「じゃなくて!!」
「はっはっは。君も久しぶりだね」
「はっ、お久しぶりです、大総統閣下」

敬礼をするあたしに大総統は苦笑いをして、そんなに硬くなるなと言う。
なかなか無理な注文だ。
国のトップである大総統を前に緊張するななんて。

「それはそうと、軍上層部を色々調べているようだな、アームストロング少佐」
「はっ!?あ…いやその…何故それを…」
「私の情報網を甘くみるな。そしてエドワード・エルリック君。

 『賢者の石』だね?」

的確に発せられた言葉に、エドは目を見開いた。

「どこまで知った?場合によっては―――」






先程とは打って変わってのピンと張りつめた空気と、
大総統の威圧ある言葉の先への恐怖に、全員が無意識に身構えた。

しかし。

大総統が、にやりと口角を上げる。

「冗談だ!そうかまえずともよい!」
「は?」

可笑しそうに笑う大総統に、呆然とし、脱力する。
エドなんか口が開いたままなかなか閉まらない。

「軍内部で不穏な動きがある事は私も知っていてな。
 どうにかしたいと思っている。だが…」

大総統がテーブルに置かれた紙の束を拾い上げた。
内密に調べた資料だけに、アームストロング少佐が僅かに焦る。

「あ…それは…」
「ほう…賢者の石の研究をしていた者の名簿だな。よく調べたものだ」

大総統は一呼吸置いてから次の言葉を口にした。

「この者達全員行方不明になっているぞ」
「……!!」
「第五研究所が崩壊する数日前にな。敵は常に我々の先を行っておる」

今現在、自分の情報網を持ってしても、その大きさも目的も、
どこまで敵の手が入り込んでいるかも掴めていない、と大総統は言った。
つまり…

「これ以上探りを入れるのはかなり危険である…と?」
「うむ。ヒューズ中佐、アームストロング少佐、少佐、そしてエルリック兄弟。
 君達は信用に足る人物だと判断した。そして、君達の安全を確保するために命令する。


 これ以上この件に首を突っ込む事も、これを口外する事も許さん!!」

鋭い目つきで命令を下すその姿は、大総統という地位を除いたとしても何者も逆らう術を持てないもの。

「誰が敵か味方かもわからぬこの状況で、何人も信用してはならん!
 軍内部全て敵と思い、つつしんで行動せよ!だが!!」

ふっと声と表情が穏やかになり、再びにやりと頼もしそうに笑った。

「時が来たら君達には存分に働いてもらうので、覚悟しておくように」
「は…
「「「はっ!」」」

軍服を着た3人で敬礼をした瞬間、遠くから気の抜けるような切実な叫びが聞こえてきた。

「閣下――っ!!」
「大総統閣下はいずこ―――!!」


「む!いかん!うるさい部下が追って来た!
 仕事をこっそり抜け出して来たのでな!私は帰る!」

そう言いながら窓の方へ移動する大総統が、窓枠に足をかけてこちらにしゅたっと手を上げ、
そのまま外へ降り立って何事もなかったかのように歩き出した。

「また会う事もあろう。ではさらば」

高らかに笑いながら去ってゆく彼をしばしぽかんと見つめていたのだが、
窓と反対側のドアが不意に開いてウィンリィが現れた。

「あれ、どしたのみんな。外の2人も固まってるし」
「いや…嵐が通り過ぎた……」
「? なんのこっちゃ…」

?マークを頭に飛ばしながら、ウィンリィが白い封筒をエドに差し出した。

「たのまれた汽車のキップ、買って来たよ」
「おっ、サンキュー」
「なんだ、せわしないな。ケガも治りきってなかろうに」
「いつまでもこんな消毒液臭い所にこもってられっか!
 明日にはセントラルを出るぞ!」

ウィンリィが来てくれたお陰で、いつもの明るい雰囲気が戻ってきたようだ。







「明日…か」



ふと呟いたそんな時にアルがあたしの顔を覗き込んだので、
びっくりして目を見開いたあたしにアルは首を傾げた。

「また怖い顔してたけど、どうかしたの?」
「あ…ううん、ちょっと考えごと。何でもない」







何でもないから―――――気にしなくて良いんだよ












 
首を傾げるアル。
うん、可愛い。