ゆるりと開かれた瞳

彼女の視線はしばらく天井あたりを彷徨ったあと

私の視線と絡み合った














…良かった…」

目を覚ましたばかりでまだ頭が上手く働いていないのか、は私をじっと見つめたまま。
ぼんやりとしている彼女の前髪をそっと払った手が、一旦私と彼女の視線を遮って再び絡まる。
その再び絡まった時の彼女の瞳。

前髪を払ったその一瞬の間に、その瞳は恐怖に…否、怯えに染まった。


「ひっ、いやぁっ!」
!?」

ぱしん、と軽い音を立てて払われた自分の手。
起きあがった彼女はベッドの上を後ずさって私と中尉から距離を置く。
まだ傷口も痛むであろうに、それを気にもせず。

その時、白いワンピースのような患者着から覗いた足に幾つも包帯が見えて、私は無意識に眉を顰めた。
後ずさろうにも、もう後ろが無くなるという時、
彼女は両手で顔を覆って俯き、何度も何度も呟いた。

「ごめんなさ…ごめん、なさいっ」
…落ち着いて…」
「ぅ…ひっく…ごめんなさい…」

顔を覆う指の隙間からぽたり、ぽたりと冷たい雫がこぼれ落ちていく。
何とかを落ち着かせようと手を伸ばし掛けたその瞬間。



「あたしっ…助けられなかった…!」





















さぁっと音を立てながら、頭の中がとてつもなく冷たくなっていく。
それは、つい今まで曖昧だった事がしっかりと輪郭を縁取った瞬間でもあった。




「…誰だ…誰なんだ!ヒューズを殺した奴は!」
「大佐…落ち着いて下さい」
「ヒューズを殺し、君まで傷付けたのは一体誰なんだ!」

「大佐!!」


後ろからかけられた中尉の声にハッと我に帰る。
いつの間にか私の両手はの両肩を強く捕まえていて、
目の前で俯く彼女は小さく首を横に振っている。

「…ごめんなさい…、ごめんなさい…」
「ぁ…」

の肩を掴む震える自分の手をゆっくりと外して強く握りしめた。

「中尉。少し席を外してくれないか」
「ですが…」
「さっきは少し取り乱した。もう大丈夫だ…と思う」
「―――…わかりました」
「それと、人払いを頼む」
「了解」









何も言わずに部屋を後にしてくれた副官に感謝しつつ、私は再びと向き合った。
静かにベッドの縁へ腰掛けると、スプリングが小さく軋んだ。
俯いた彼女の表情は、重力に沿っている髪に邪魔をされて伺う事は出来ないが、
時折落ちる雫が今の状態の全てを物語っている。

「やっぱりヒューズの事を知っていてセントラルに来たんだな…
 どうして私に相談しなかった?」
「……出来ない」
「そんなに私は頼りないか?」
「ちがっ…こんな事、相談出来るわけないじゃない!」

再び溢れだした感情を抑える事が出来ないのか、
は口元を手で覆い、涙を必死に堪えようとしてるようだった。
声が酷く震えている。

「『貴方の大事な人がこれから殺されるかもしれないので助けに行きます』なんて…言えないよ。
 何も起こらなければそれで良かった。
 事が起こっても、助ける事ができてロイが何も知らずに過ごせればそれで良かった…」
「しかし…」
「…あたしは、犯人を教えてあげられない…」
「何故なんだ…」




「っ、憎めば良い…あたしの事を」
「何…?」
「犯人を言えないあたしなんか、憎んでくれた方が良い!」

勢いで顔を上げたは、目を赤く泣き腫らし、
身体に付いた傷の痛みではない、もっと違う痛みに耐えていた。







それは引き裂かれそうな程の心の痛み。













思わず私は彼女に腕を伸ばし、その傷だらけの身体を自分の腕に閉じ込めた。
瞬時に私は思う。

彼女の身体はこんなに小さかっただろうか、と。

「離してっ…」
「嫌だ」
「憎んでよ…!」
「それも嫌だ」
「お願いだから…憎んで、下さいっ!」

夢に見たの真理が話していた事はこの事だったのだ。
責めないで。
問い詰めないで

もっと知った上で。
全部を包み込んだ上で愛せ、と。



腕を突っぱねて距離を取ろうとするを離すまいと、私は更に強く抱き締める。
病室にはの小さな嗚咽だけが満ちて、
私は徐々に抵抗がなくなっていった彼女の頭を撫でながら、何度も何度も髪を梳いた。

「1人で全てを背負い込み、戦って、傷ついて…
 ヒューズの為に動いてくれた君を憎めるわけがない。
 君を守るという約束さえ守れなかった私が――
「違う!違う違う違う!」
と結ばれて安心し、守りきる自信があると自惚れていたんだ…すまない」
「ロイが謝る必要なんてどこにもないっ…勝手に動いたのはあたしなんだから!
 この世界の誰も、何も知らなくて良い!
 あたしは…ただ、ずっとロイが笑っていてくれさえすれば良か――
「一番憎いのは私自身だ!」
「っ!」

の言葉を遮るように声を張り上げると、彼女の体が少し跳ねた。

「…私は、君の覚悟と悲しみに気付いてやれなかった。
 犯人を教えられないのも、私や周りに余計な危険を撒かない為なんだろう?」
「…」
「私は君まで失いたくないんだ…!」

「ぁ…」





























は大きな声を上げて泣いた。

「ごめんなさい」と「ありがとう」

何度も紡ぎながら。