欲張ったあたしの手の中には

もう殆ど何も残ってはいない

たくさん零れ落ちていったから

















あたしが落ち着くまで、ロイはずっと抱き締めてくれていた。
頭を撫でてくれたり背中をさすってくれたり、久しぶりに感じるロイのあたたかさだ。

「ロイ…」
「なんだ?」
「あたしの知ってる事、もう少ないの…」

あたしの知っているページはもう殆ど無いに等しい。
それはあたしにとって…

「エドとアルがどこへ行って何をするかっていう、1ヶ月先くらいまでしかわからない…」
「本が途中までしか出てない、ってやつか…」

「でもそれが怖い…!」

無意識に握りしめてしまった手が、ロイの軍服を掴んでいるのに気付く。
咄嗟に手を緩めた所で、ロイがあたしの手を握りかえしてくれた。

「知っているのが怖い。でも…知らないのも、怖い…またこんな事が――」
「知らなくて良い。もうがこんな思いをしなくて済むのなら。
 だから…これからは一緒に歩いていこう。な?」
「っ、ロイ…」

見上げたロイは優しく笑っていた。
あたしが守ろうとしたその笑顔を浮かべているのだ。

あたしを失いたいくないのだとロイが漏らした時、あたしは自分の浅はかさに気付いた。
辛いのはあたしじゃなくてロイの方なのだ。
大切な人を失った彼からあたしは尚更離れる事など出来るわけがない。




ヒューズ中佐の死も。
あたしのした事も。
あたしの中にある既知の短い未来も、それに対する想いも。
全部受け入れてくれて。

それでもあたしに笑いかけてくれている。






「だい、すき…大好き大好き大好き」
「ああ」
「あたしは、ロイの傍に居ても…良いですか?」
「それは私が聞くべき事だ。


 …私の傍に居てくれないか?」

また零れた涙。

「はい…!」
「もう離れていこうとしないでくれ…もう大切な者が居なくなるなんて――」
「ごめんね、ごめんね!もう居なくならない。ずっと、ずっと傍に居る!」

腕をいっぱいに広げてロイを引き寄せたら、
そうしたらロイももっと強く抱き締めてくれた。
その瞬間。
本当の意味で、あたしはやっと彼の元に帰ってきたのだった。










手の中には殆ど何も残らなかった

けれども握りしめた手の中に

確かに残ったものもあったんだ