それでも世界は何も変わらないけれど
失ったものが戻ってくるわけではないけれど
それは螺旋のようにどこかへ繋がっている
これは間違いなどではない筈だ
丘の上を風が流れ去っていく。
その風はこれから幾つもの知らない土地を旅していくのだ。
大きな流れは変わらない世界の秩序。
それはこの場にいる殆どの者がわかっている事だった。
「……ママ。どうしてパパ埋めちゃうの?」
軍旗の掛けられた棺に次々と被せられていく土を見て、
エリシアちゃんがグレイシアさんに問いかける。
「ねぇ、おじさんたちどうしてパパ埋めちゃうの?」
「エリシア…」
まだ幼い子に『死』を完全に理解させるのはとても難しく、
それが今はとてつもなくこの場に圧し掛かる。
土を被せている数人の男達も、
棺の中にいる者の娘の姿に思わず自分のすべき事を躊躇してしまっていた。
しかし、それでも土に還すのをやめてはいけないのだ。
「いやだよ…いやだよぅ…
そんなことしたら、パパおしごとできなくなっちゃうよ…」
「エリ…っ」
何故、と問いかけるエリシアちゃんに、グレイシアさんは涙を堪え切れず、
同じく参列している人々も涙を零し、あるいは堪え、土に見えなくなっていく棺を見送った。
「パパおしごといっぱいあるって言ってたもん。
いやだよ…埋めないでよ………
パパ……!!」
「殉職で二階級特進…ヒューズ准将、か……
私の下について助力すると言っていた奴が私より上に行ってどうするんだ、馬鹿者が」
ロイは花の供えられた真新しい墓標の前に立っていた。
中尉は葬儀の後すぐに気を利かせてくれて先に司令部へ戻り、参列した人達も居なくなった墓地は、
各々、自分の大切な人の墓参りに来ている人がちらほら見えるだけだ。
墓標へ静かに問いかける彼の背中を、あたしは静かに見守るだけしかできない。
泣いてはいけない。
あたしはここに辿り着くまでの色々な事で沢山泣いた。
それに、一番泣いてほしい人が泣いたとき、支えてあげられるのは自分だけなのだと思うから…
その瞬間、あたしが泣いていてはダメなのだと。
冷えてきた風に、あたしはロイへ後ろからそっといつもの黒いコートを掛ける。
「…まったく、錬金術師というのはいやな生き物だな。
今…頭の中で人体練成の理論を必死になって組み立てている自分がいるんだよ」
上着を着ながらロイは一度口をつぐみ、着終わって再び口を開いた。
「あの子らが母親を練成しようとした気持ちが今ならわかる気がするよ」
「ロイ…」
ロイが堪えているもの、溢れさせたいもの、全部あたしが掬い取るから。
一雫も零れないように、全部。
「―――いかん、雨が降ってきたな」
制帽を目深に被ったロイが、青い空を見上げた。
「…うん…」
零すまいとするロイの姿はやっぱりいつもより幾分も頼りなげで、
あたしはその背中に、そっと自分の背中を合わせた。
「雨だね…」
「っ…」
その瞬間、背中に感じていたぬくもりはすぐ消えて、
今度は背中だけじゃなくてすっぽりとぬくもり自体に覆われる。
あたしはロイに後ろから抱きこまれ、ロイはあたしの肩に頭を預けてくれた。
「――本当に馬鹿者だ…ヒューズ…!」
感じるのはぬくもりと同時に、微かに震える彼の体だ。
心をぎゅっと締め付けられるような感覚と、自分の意思と関係なく熱くなる目頭。
あたしはロイにたくさん支えてもらっている。
あたしもロイを力強く支えていかなければいけないんだ。
先を恐れず、まっすぐ前を見ながら。
だから、あたしは頑なに瞳を閉じる。
ロイを強く支えます。
一緒に歩いていきます。
ヒューズ中佐。あたしもロイも大丈夫だから、どうか安心して下さい。
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ヒューズの葬儀のシーンは泣きながら書きました…
原作片手にグズグズと。