もうそこにアナタは居なかった


アナタを求めて伸ばした手は


空を切るばかりなの




















ぷつりと途切れた空間と、ふと現れた空間。
その変化は覚醒を意味した。

「ダメか…」

雨の夜、夢の中に『あたし』は居なかった。
どこを探しても見つからなかった。
は小さく溜息を吐き、寝転んだままの姿勢でサイドテーブルに置いてある銀時計へと手を伸ばした。
ぱかりと開けて一つ欠伸をする。

「ふあぁ〜…あ!?」

家の中に叫び声が響き渡った。













非常に危険です。
急な配属だった為、今日は勤務表の関係上午後からの出勤。
午前中はゆっくり出来ると思っていたのにも関わらず、起床時間は11:30。
12:00までに東方司令部に着かなければならない。
女は身支度に時間が掛かるものなのだ。

「全っ然アラーム鳴ってないじゃん!」

実際は鳴っている携帯のスピーカーを、自身が寝ぼけながら手で押さえた所為なのだが…
は歯を磨きながら髪に櫛を通した。
起きられなかったのは、昨日の初任務と銃の訓練の緊張で疲れていたからだろう。
しかも、運悪くロイは昨晩夜勤で家に居ない。

「もうこんな時間だし!!」

ばたばたと家の中を走り回り、やっと準備が出来たので火の元や施錠を確認して外へ出た。
この時間だと司令部までずっと走らないと間に合わないだろう。
は覚悟を決めた。

























「や、やった…これなら…間に、合いそ…はぁー」

時刻を再び確認すると、現在12:56。
司令部は目と鼻の先だったので、はやっと歩く事ができ、段々呼吸も落ち着いてきた。
後は角を曲がって…

「うわっ」
「わ!」

向こうから曲がって来た人とぶつかりそうになり、反射的に避けようとした所バランスを崩す。
しかし、相手が腕を引いてくれたのでは倒れる事を何とか免れた。

「あ…ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした、少佐」
「あっ!す、すみません!書類が…」

は床に散らばった書類を見ると、彼と一緒に集め始めた。
彼は軽く微笑み、せっせと手を動かすを軽く手で制した。

「本当にお気になさらないで下さい」
「本当にすみません…まだ頭が寝てるみたいで…」

は苦笑いしながら集めた書類を彼に渡した。

「ありがとうございます」
「それじゃ、あたしは…」

突然のタイムロスに、あたしは角を曲がって彼の姿が見えなくなってから早足に進んだ。







やっと辿り着いた司令部の扉を開くと、フュリーが声をに掛けてきた。

「あ、ちゃん」
「お疲れ様です」
「結構ギリギリでしたね」
「あー、理由はかなりベタなんで聞かないで下さい…」

家での出来事と先程の事を思い出し、苦笑いする。
それを聞いたブレダとハボックが同時に声を上げた。

「ついつい寝坊した」「曲がり角でぶつかった」

真面目な顔をして言う2人にがぽかんとしていると、2人の顔が急に緩んだ。

「ってこの時間で寝坊はないよなぁ」
「ってこれはベタ過ぎるか…何だよベタって言うのは」
「あははは…秘密です」

どちらもビンゴで当てられて内心ぎくっとしただったが、
2人が自分で否定してくれたのでそのままやり過ごす事を決め込んだ。
未だ乾いた笑いを発しながら再び机と向き合うと、今日の仕事は資料が必要な事に気が付いた。
は書類を手に取って立ち上がり、リザに資料室へ行く旨を伝えて部屋を後にする。







が部屋から出て暫くすると、控えめなノックの音が鳴った。
























資料室に入ると、少し埃っぽい古い本の匂いが鼻を掠めた。
東方司令部の端の方に位置する資料室はしんと静かで、
どの部署の喧噪からも隔離されている様な感覚。
リザさんに教えて貰った本棚を探し当てると、
あたしは脚立を持ってきて一番上の棚の左から指でなぞった。

「違う…これでもない…」

なかなか見つからないお目当ての資料に溜息をつくと、午前中の出来事が甦ってきた。
本当にあれには参った。
これからもあんなでは、みんなに迷惑を掛けてしまう。

「もっとアラームの音量を上げておこう…」

あんなに急いで出発したんから、きっと何か忘れ物しているような…気が…



ふと感じる違和感。
止まった手を首の方へ持って行った。
有る筈の物が無い。

「うそ…あたし、出掛け際着けた…よね?」









アンダーウェアの上から着けていたネックレスが







消えた












 

あぁ…ロイの出番が…