指を鳴らし、焔を操る。


その戦い方そのものが名前の由来。






















キッチンを覗くと其処には愛しい君の後ろ姿。
包丁を持つ手が動く度に、私と同じ色をした黒い髪が少し揺れる。

「あ、ロイ。ちょっと来て」

私の視線に気が付いたは、こちらを向いて手招きをした。
言われるがままに近づいてを腕の中に閉じ込めた。

「違う!」
「何だ…てっきり構って欲しいのかと」

構って欲しいと思っているのは自分の方だった。
私が渋々離れると、彼女は鍋を指差しながら木べらを差し出した。

「料理はいかに同時進行が出来るかどうかなんだから。
 これ、炒めて欲しいの。まずは玉葱からね」
「あ、あぁ。わかった…」

木べらを受け取って私は鍋に向かうが、正直な話、私は料理があまり得意ではなかった。
かといって断るのも男が廃る。
…まずは鍋を温めようじゃないか。



























夕食の準備を粗方終えると、仕事の為に部屋にいるロイへコーヒーを持って行った。
あの時見た分だと、ロイはかなり落ち込んでいた様だ。
去り際に「気にしないで」と声を掛け、退室して居間へ戻ってきた。
ソファーに深く座ると、テーブルの上に無造作に置かれたロイの手袋が目に入った。
甲の分に描かれた錬成陣。

「二つ名は焔なのになぁ…」

それでも、そんなロイも可愛いなぁ、と少し笑みが零れた。

ロイが温めた鍋に油を入れた時。
温めすぎた鍋の所為で上がった炎に呆然と立ち尽くしていたロイだったので、
あたしは素早く手を合わせて火の方へかざしたのだ。
徐々に消える炎―――その原理はロイ自身が一番わかっている筈なのだ。
まあ鍋に蓋をするのも一つの手だが、何たって錬金術の方が早い。





手袋を右手に嵌めてみた。

「…ぶかぶか」

余る指先の布。
自分ともロイとも縁の無い、来客の為だけにある灰皿へといらない紙を破って入れる。
発火布を纏った手と纏っていない手を軽く合わせてから指を鳴らした。
火花がぱちっと音をたて、吸い寄せられる様に灰皿へ向かう。
今のように酸素濃度の調節は手を合わせる事で行えるのだが、
この発火布の様に、火種がなければ発火出来ない。
脱いだ手袋と灰皿の火を交互に眺め、その辺りの問題をどう解決すればよいかと考える。
軍人だから査定は免除といえども、やっぱり錬金術師の性のようだ。
あたしは取り出した研究手帳に色々書き込んでいった。














突然居間のドアが開き、ロイが入ってきた。

「お仕事お疲れサマ」
「やはり仕事は捗らん」

もう立ち直ったらしいロイは、静かにの隣に座った。
妙に立ち直りが早いロイを不思議に思ったが、閉じた研究手帳をテーブルに置いてロイの方を見た。

「ねぇねぇロイ。手、出してみて」
「?」

無邪気に笑うに言われるままに手を出すとは自分の左手とロイの右手をくっつけた。
大きさの違いを見て声を上げる自分の恋人に、自然とロイの顔は綻んだ。


些細な事でもとても嬉しそうに笑うその表情も、どんな些細な行動も、
彼女の全てが私を惹きつけてやまない。


ロイはと合わせている手を握りしめると、ぐいと引き寄せた。
驚いて小さく声を上げたをすっぽり腕の中に収めると、ロイは繋がったままの手を口元へ寄せた。
わざと小さく音をたてて口付ければ、の頬は紅く染まる。

「料理は苦手なままで良いさ。君が作ってくれるだろう?」

は顔を隠す様に少し俯いて、きゅっとロイのYシャツを握りしめた。

「…キザ…」
「何とでも」









私は君に対してだけ、こんなに我儘なんだ。














 

だって君がいるから。